研究課題/領域番号 |
18K03427
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
牛島 健夫 東京理科大学, 理工学部数学科, 准教授 (30339113)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 解の爆発 / リスケーリング・アルゴリズム / 爆発レート / 数値計算 / 非線形微分方程式 / 曲率流 |
研究実績の概要 |
非線形発展方程式の解は必ずしも時間大域的には存在せず,しばしば有限時間で特異性を生じる.このような現象を解の爆発,特異性の生じる時刻を爆発時刻と呼んでいる.また,特異性の発生に伴って解のなんらかのノルムが無限大に発散するが,その発散のオーダーは爆発レートと呼ばれている.様々な方程式に現れる爆発解に対して多様な解析が行われているが,それらの中に複雑な爆発レートを持つ解の存在が指摘されているものがしばしば見受けられる.このような複雑な爆発レートを持つ爆発解を,統一的に数値計算によって捕まえることはかなりの困難を伴った問題である.我々は,2017年にスケール変換不変性をもつ非線形発展方程式に対して,リスケーリング・アルゴリズムを利用して,爆発解の爆発レートを見積もる方法を提案した.本研究の第一の目的は,この提案手法の精密化と適用範囲の拡大であり,第二の目的は,解析的にはその爆発レートが知られていない未知の問題への提案手法の適用とそれに基づいた数学解析である. 提案手法では,リスケーリング・アルゴリズムの数値的な実現から得られるある数列の挙動の情報を引き出す必要があり,そのための方法の確立が本研究の第一の課題であった.2018年度には,このための一方法を提案し,幾つかの方程式に対する数値計算を通じてその有効性を確かめた.この手法では,リスケーリング・アルゴリズムに含まれるパラメータを有効に利用することができることも付記する.また,平面曲線の曲率流の解の爆発に伴う爆発集合の境界での挙動の数値的観測も本研究課題の一つであったが,その点についての検討も行った.これらの成果について国内外の研究集会で発表するとともに,その内容を数理解析研究所講究録に投稿した.また,解析的に爆発レートの知られていない面積保存の曲率流・周長保存の曲率流に対する提案手法による数値実験を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題申請時の計画では,上記爆発レートに対する提案手法について,以下のことを行うことになっていた.1. 提案方法の改良・精密化(数値計算から上記数列の挙動の情報を引き出す方法の研究.精度保証付き数値計算の利用の検討.リスケーリング・アルゴリズムに含まれるパラメータの利用方法の確立.) 2. 提案方法の適用範囲の拡大(藤田タイプの半線形放物型偏微分方程式,Keller-Segel方程式等への適用の検討.爆発集合の境界上では解の最大値の爆発レートとは異なるレートで解が爆発する状況の検討.完全にはスケール変換不変性を持たないような方程式に対する提案手法の有効性の検討.) 3. 未知の問題に対する適用と数学解析(面積保存の曲率流などへの適用と数学解析の検討.) 上記の計画の内,2018年度には以下のことを行った.数値計算から上記数列の挙動の情報を引き出す方法の研究.リスケーリング・アルゴリズムに含まれるパラメータの利用方法の確立.爆発集合の境界上では解の最大値の爆発レートとは異なるレートで解が爆発する状況の検討.面積保存の曲率流などへの適用の検討. 上記のように研究計画の内の多くの課題に着手し着実に研究成果をあげるとともに,国内外の研究集会でその成果を発表していることから,本課題の進捗状況はおおむね順調に進展していると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
本研究のテーマとなっている爆発問題については,以前より,早稲田高等学院の穴田浩一氏・芝浦工業大学の石渡哲哉氏と定期的に議論を行いながら研究を推進してきた.今年度も引き続き一ヶ月に一度程度の頻度で両氏との研究打ち合わせを行いながら研究を進める. また申請時の計画通り,7月にスペイン・バレンシアで行われる国際会議 ICIMA2019 に参加し,本課題に関する研究成果を発表するとともに,本研究課題に関連する情報収集を行う予定である.また,やはり申請時の計画通り,高速のノートパソコンを導入し,数値計算環境を充実させる.これによって,本課題の遂行に必須の数値計算プログラム開発が今まで以上に機動的に行えるようになることが期待される. 具体的な研究課題としては,上記申請時の計画の内,上記数列の挙動の情報を引き出す方法の研究の継続,精度保証付き数値計算の利用の検討,藤田タイプやKeller-Segel方程式等への適用の検討,爆発集合の境界での爆発解の挙動に関する研究の継続,面積保存の曲率流・周長保存の曲率流に対する適用に関する研究の継続とそれらに対する数学解析,等を行う. 当面の数値計算上の目標は上述したいくつかの問題に対する数値実験例の蓄積である.また,昨年度行った数値実験から,偏微分方程式に対して提案手法を適用する際に生じる困難がいくつか明らかになっている.一つは,問題によっては,上記数列の計算時間が膨大になるという問題である.また,別の問題は,上記数列の項数を増やして正確に求めるためには,偏微分方程式の近似の精度をあげなければならないという問題である.本年度はこれらの困難点について,理論的な解決を試みる.
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額95753円が生じた理由は,海外出張のために計上していた旅費よりも安価な航空運賃で渡航することが可能であったこと,計算機周辺機器(記憶装置)の購入を予定していたが,以前から所有していた装置を流用して新規購入を見合わせたこと,専門知識の提供を受けるために計上した予算よりも低額の費用で計画通りの効果を得ることができたこと,の3点である. 次年度は,スペイン・バレンシアへの出張旅費が昨年度交付申請時計画よりも多く必要となる見込みであるため,これにあてる計画である.
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