研究課題/領域番号 |
18K03432
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
横山 和弘 立教大学, 理学部, 教授 (30333454)
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研究分担者 |
野呂 正行 立教大学, 理学部, 教授 (50332755)
篠原 直行 国立研究開発法人情報通信研究機構, サイバーセキュリティ研究所セキュリティ基盤研究室, 主任研究員 (70565986)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | グレブナー基底 / 計算機代数 / 公開鍵暗号 / F4 アルゴリズム / F5 アルゴリズム |
研究実績の概要 |
グレブナー基底は多項式イデアルのよい性質をもつ基底で、純粋数学から工学等の応用まで幅広く用いられている。グレブナー基底計算では、これまで数多くの実装が行われてきたが、効率化には未だに問題が残っている。本研究では、近年注目を浴びているSBAと呼ばれる効率化技法に関し、その理論の完成と高速化を実現できる実装を目指す。 2018年度では、理論の完成のための第1段階として、斉次イデアルの場合に詳細な検討を加え、その特性を明確にした上で正当性・停止が正しく示すことに成功した。さらに、非斉次の場合にも、基本的算法の枠組みをほぼ完成させた。 SBAの実装・性能評価においては、第1段階として既存のブッフバーガーおよび実際的な高速化技法であるF4アルゴリズムの実装の効率化を行なった。実際には、計算機代数システムRisa/Asirで用いている多倍長整数計算を、独自開発のものからGNU MPに変更した。この改良により、有理数体上のF4アルゴリズム実装の性能がベンチマーク問題で比較して最大5倍程度の高速化を実現した。また、有限体上のグレブナー基底計算に関しても、64bit整数計算を使用する部分の拡大を行なった。 応用研究では、暗号(特に多変数公開鍵暗号)の安全性評価である代数的手法におけるグレブナー基底の高速計算を扱い、フォジェールによる最初のSBAであるF5アルゴリズムのように、F4アルゴリズムとSBAを融合したアルゴリズムの構築を検討している。2018年度はF4アルゴリズムの計算において生じる多項式集合をある程度自分自身で簡約(正規化)すること(ここでは自己正規化とよぶ)の有効性を検証した。また、純粋数学への応用として、グレブナー基底を利用したイデアル計算として準素分解についてその高速化を行なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は第1段階の位置付けである。理論の完成では、SBAの正当性・停止性、そして既存の方法への優越性に関して、斉次イデアルの場合に集中して検証を行い、その特性を明確にした上で正当性・停止を正しく示すことができた。さらに、非斉次の場合にも、特殊な形ではありかつ効率化に対しての詳細検討までは至らないが、基本的な算法をほぼ完成させることに成功した。 SBAの実装・性能評価においては, 既存の手法であるブッフバーガーおよびF4アルゴリズムの実装の効率化を主として行った。これは第2段階へ向けての下地作りである。計算機代数システムRisa/Asirで用いている多倍長整数計算プログラムを、独自開発のものからGNU MPに変更した。この改良により、有理数体上のF4アルゴリズム実装の性能がベンチマーク問題で比較して最大5倍程度高速化するなどの成果が上がっている。 応用研究では、多変数公開鍵暗号の安全性評価である代数的手法におけるグレブナー基底の高速計算を扱い、F4アルゴリズムの計算において生じる多項式集合をある程度自分自身で簡約(正規化)すること(ここでは自己正規化とよぶ)の有効性を検証した。また、純粋数学への応用として、グレブナー基底を利用したイデアル計算を取り上げ、準素分解についてその高速化を行なった。これらは、今後グレブナー基底計算がより高速になれば、その分高速になることが期待される。
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今後の研究の推進方策 |
第2段階に入る。SBA理論研究においては、斉次イデアルの場合に得られた詳細な性質を元に、斉次ではない一般の場合に拡張する。これらを基に、正当性・停止性を保証し、さらに既存の手法に対して明白な優位性を持つことまで理論的に詰めていく。 SBAの実装・性能評価では、理論的成果の進捗に沿った形で精密な実装実験を行い, 合わせて既存の手法との比較も含めて性能評価を行う予定である。また実装実験により理論的に得られた性質を検証するとともに、新たな知見を探し、理論研究に反映させる。 応用研究では、暗号を引き続き取り上げ、高速化したグレブナー基底計算が既存の公開鍵暗号の安全性にどのような影響があるのかを丁寧に検証する。特に、非斉次多項式の場合において、現在最も高速に実装されているF4アルゴリズムとSBAを融合した方法を理論的に検討し、その場合に2018年度の成果である自己正規化の効果などを数値実験的に検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末の出張が、次年度からの支出となった。 研究分担者の篠原は、文献調査を主に実施したため、旅費の使用は1件のみとなった。次年度予算と合わせ、研究発表の旅費および携帯用PCを購入する予定である。
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