研究課題/領域番号 |
18K03438
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研究機関 | 岡山理科大学 |
研究代表者 |
大江 貴司 岡山理科大学, 理学部, 教授 (90258210)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 異常拡散方程式 / 代用電荷法 / 基本解 |
研究実績の概要 |
平成30年度は次の二つの課題、すなわち(1)吸収項を含む異常拡散方程式の基本解の構成、および(2)生体内の近赤外線伝播の数理モデルにおける実用的なパラメータの設定について、成果を得ることができた。 まず(1)について述べる。生体内における近赤外線伝播や環境における汚染物質拡散の数理モデルにおいては、単なる異常拡散モデルではなく、吸収項を含むモデルが適当である。この考えのもと、吸収項の影響を考慮した基本解の具体的な構成について研究を進めた。その結果、空間次元が1次元の場合に対し、ミッターク・レフラー関数に関するフーリエ積分を用いた表現を得ることができた。現在、得られた表現を基に、高精度な数値計算を行うための数値積分法に関する検討、および吸収項を含む定常拡散方程式や非定常拡散方程式の基本解との空間的・時間的漸近挙動の違いについての検討を行っている。あわせて基本解の別表現として、べき級数展開表現の検討を進めており、すでに知られている吸収項を含まない場合の基本解との比較検討を行う予定である。さらに、平成31年(令和元年)度以降の展開のため、2次元以上の空間次元に対する、基本解の具体的表現の検討に入っている。 次に(2)について述べる。吸収項を含む異常拡散現象は生体内の近赤外線伝播の数理モデルの一つであり、応用にあたっては拡散係数や吸収係数といった各種パラメータの値や境界条件、光源のモデルの設定についての知見が必要となる。これらの内容について、研究協力者である町田学氏(浜松医科大学)との議論により知見を深めることができた。特に光源モデルについては、境界条件として扱う方法およびソース項として扱う方法の2通りがあり、それそれ一長一短があることがわかった。どちらのモデルが代用電荷法による数値計算に適したものであるか、今後、詳細に検討を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度は異常拡散方程式の基本解の数値計算法について研究を進めた。生体内における近赤外線伝播や環境における汚染物質拡散の数理モデルにおいては、吸収項を含む異常拡散モデルが適当であることから、吸収項の影響を考慮した基本解について研究した。その結果、ミッターク・レフラー関数に関するフーリエ積分を用いた具体的表現を得ることに成功した。得られた表現により、高精度の数値計算の道筋が見えてきた。さらにこの表現を基に、吸収項の影響を考慮した基本解のべき級数展開表現が視野に入ってきた。基本解のべき級数表現は、数値解の式による具体的表現につながり、ひいては数値解の誤差の理論解析の可能性につながる。また、今回得られた基本解を、吸収項を含む通常の拡散方程式の基本解と比較することにより、解の定性的性質や解に対する吸収項の影響の違いなどを検討することが可能となった。この成果は、研究実施年度計画として立てた目標に近いものである。 また、研究協力者である町田学氏との議論により、生体内における近赤外線伝播の数理モデルに対する、拡散係数や吸収係数といった各種パラメータの値や境界条件、光源のモデルの設定について知見を深めることができた。生体内における近赤外線伝播への応用は、研究実施計画では最終年度に行うものであるが、早期の検討することができたことは、今後の研究の進展に大きく関与するものと考える。 以上により、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度の研究により、吸収項を含む異常拡散方程式の基本解について、空間次元が1次元の場合に対し、ミッタークレフラー関数に関するフーリエ積分を用いた具体的な表現が得られた。今後はこの表現を基に、吸収項を含む異常拡散方程式に対する代用電荷法を構成し、数値解法の研究を進める。 平成31年度(令和元年度)については、最も単純な領域である円盤領域への適用について研究を行う。具体的には、(a) 2次元以上の空間次元に対する基本解の具体的表現の検討、(b) 基本解の特異点および拘束点の配置、および時間変化を伴う境界条件の近似法の検討、(c) 基本解の漸近的挙動について吸収項を含む場合と含まない場合の比較検討、(d)基本解のべき級数展開表現の構成、(e) 生体内における赤外線伝播についての数理モデルの検討を中心に研究を進める。 まず、(a)は円盤領域への適用においては必須のものであり、まず平成31年(令和元年)度の早い段階で結果を出す予定である。(b) については、時間変化を伴う境界条件の近似法を集中的に検討する。時間変化を伴う境界条件は、通常の拡散方程式に対する代用電荷法でも研究結果は少ない。手法の評価は主として数値実験により行う。 (c)、(d)については理論的な方向から検討を行う。(c)については異常拡散における吸収項の漸近挙動への影響が、通常の拡散と比較してどのように異なるのか考察する。(d)は数値解の具体的表現につながる重要なものであり、ひいては数値解の一意性解析や理論的な誤差評価につながるため、詳細に検討を進める。最後に(e)については、平成31年度(令和元年度)より町田学氏が研究分担者となり、より緊密に連携をとることができるようになったことから、特に、光源モデルについて詳細な検討を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究協力者との打ち合わせのために用意した謝金が、一部未使用で残ったため。 今年度、国際会議への出席を予定しており、国外への旅費の一部として、また構築した計算機環境の改善に充てたいと考えている。
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