研究課題/領域番号 |
18K03438
|
研究機関 | 岡山理科大学 |
研究代表者 |
大江 貴司 岡山理科大学, 理学部, 教授 (90258210)
|
研究分担者 |
町田 学 浜松医科大学, 光尖端医学教育研究センター, 指定講師 (40396916)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 異常拡散現象 / 数値解法 / 代用電荷法 / 基本解 / CQM |
研究実績の概要 |
令和3年度は、令和2年度に開発した基本解の数値計算法を基に初期値をゼロとした境界値問題の数値解法を実装し、主に誤差の収束特性について数値実験により検討した。その結果、誤差の収束について、以下のことがわかった。(i) 空間変数については電荷点の個数に対し、指数関数的である。なお収束の速度は電荷点と拘束点の距離を大きくとった方が高い、(ii) 時間変数については時間刻み幅に対し、線型オーダーである。この中で、(i)の特性はLaplace方程式に対する代用電荷法が持っている性質と類似のものであり、好ましいものである。一方で、(ii) の特性は不満足ではあるものの、ある程度、予想されたものであった。これらの研究成果は、日本応用数理学会年会(2021年10月)および環瀬戸内応用数理研究部会第27回シンポジウムにおいて口頭発表を行った。 その後、層状領域への拡張を検討していたが、数値実験を進めていくうちに、時間刻み幅を小さくした場合に不安定性が生じることが判明した。線型安定解析に基づく分析を行った結果、電荷点と拘束点の距離を小さくすれば多少改善されるものの、この不安定性は今回用いている手法、すなわち時間方向について単純な線形和を取る手法が本質的に持っている性質であり、そのままの形での解決は困難であるものと考えられた。そのため、時間方向の近似手法を根本から考え直すことが必要となった。 年度末になり、時間依存問題に対する境界要素法の手法について調べた結果、Lubichが開発したConvolution Quadrature Method(CQM) を適用することで解決できるのではないかとの着想を得た。現在、CQMを適用した代用電荷法の数値計算法の開発を行い、予備的数値実験を行っている段階であるが、良好な結果を得つつある。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
令和3年度に入った時点では、前年度まで研究により基本解の数値計算法が完成したことから、研究課題の目標である層状領域に対する代用電荷法の適用について、めどがついたものと考えていた、しかしその後、数値実験を行い、結果を詳に分析したところに、時間刻み幅を小さくすると不安定性が生じることが判明した。線型安定解析を行ったところ、この不安定性は時間変数に関する単純な和を用いた場合に本質的に生ずるものであり、そのままの方法では解決は困難で、新たな考えに基づく対処が必要となった。その結果、Lubichが開発したConvolution Quadrature Method の適用が有力な候補となり、予備的数値実験ではあるものの、安定な計算が可能であることがわかってきた。 目標である層状領域に対する代用電荷法の適用については、まだまだ検討の余地があるとはいえ、可能性が見えてきたと考えている。その結果、研究期間について本来の期間を1年延長する必要が生じた。 以上を考慮し、「遅れている」と判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
令和3年度の研究で、時間変数に対する解の近似の方法として、単純な線型和近似を用いた手法では、時間刻みを小さくしていった場合に不安定性が生じることが数値実験的に判明した。この不安定性を改善する方策として、Lubichが開発したConvolution Quadrature Method (CQM) を適用したところ、予備的数値実験の段階ながら、安定な計算結果が得られることがわかった。 令和4年度はCQMを適用した方法について、より詳細な検討を進める。具体的には以下の4点を中心に研究を進める。(i)線型安定性解析を行い、時間刻みや拘束点と電荷点の距離との関係について分析する。(ii) 誤差の詳細な分析、特に時間刻みや拘束点の数に対する収束特性について分析する。(iii)層状の領域に対する適用の検討、特に空間的な電荷点および拘束点の配置に関する分析を行う。(iv)近赤外光を用いた生体計測デバイスの実験データと本手法で得られる近似解との比較を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
令和3年度も令和2年度同様、新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受け、参加を予定していた国内および国際学会がすべてキャンセル、もしくはオンラインによる実施となった。また、研究進捗報告と今度の展開のための打ち合わせについても、基本的にオンラインで実施した。したがって、学会出席および研究打ち合わせのために用意した旅費が未使用で残ることとなった。 令和4年度になり、新型コロナウイルスの感染拡大状況は多少落ち着き、国内の学会や研究集会については対面での開催が行われつつある。こうした状況を鑑み、令和4年度に延長した費用については、国内学会参加旅費、本研究課題の推進のために購入した計算機システムの増強、研究関連図書の購入の費用として使用する予定である。
|
備考 |
本研究課題に関連して、上記の研究集会を主催者・研究代表者として実施した。
|