昨年度に引き続き、水素化合物における超伝導について、第一原理的にEliashberg方程式を解く手法を用いた解析を継続的に行った。特に、硫化水素に炭素をドープした系の研究を論文にまとめた。この系は高い転移温度を持つ状態が実験的に示唆されていたが、その可能性を理論的に詳細に検証することにより、高い転移温度を持つ状態が現れないことを明らかにした。これは、実験を説明するためにはこれまでの理論にはない要素を考慮しなければならない可能性を示唆しており、理論実験両面でさらなる研究が必要だといえる。 他にも近年見つかってきている水素化合物の超伝導体に対してEliashberg方程式を用いた計算を進めた。この手法は、超伝導の転移温度を計算する手法の中でも、最も一般的に様々な効果を取り入れることが可能であるが、中でも他の手法では議論が難しい、グリーン関数を自己無撞着に決定することによる影響について詳細な議論を行った。この結果、どのような場合に従来の手法の問題が顕在化し、Eliashberg方程式を解く手法が重要になるかが明らかになった。このように少しずつEliashberg方程式を用いた手法の適用例が増えてきて、その精度や利点も明らかになりつつある。 また、Eliashberg方程式を解く際に、プラズモンの効果やスピン揺らぎを取り込む方法についても継続的に開発を行った。今後はこの実装を完了させ、より精度の高い手法の確立を目指していく予定であり、これにより、精度の高い物質探索を継続的に行っていければと考えている。 さらに、物質探索に向けて、元素の組成比を連続的に変えた場合を扱う、CPAと呼ばれる手法のワニエ関数を用いた実装も行った。この新しい実装は一般的な第一原理計算と接続可能でありEliashberg方程式の計算にも取り込んで物質探索領域を拡大できると考えている。
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