研究課題/領域番号 |
18K03443
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
内田 就也 東北大学, 理学研究科, 准教授 (10344649)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 集団運動 |
研究実績の概要 |
(1) 遊泳バクテリアの集団運動については、スペクトル法(高速 Fourier変換)を用いて流れ場の計算を高速化した。バクテリアの数密度を変化させることで、バクテリアが互いに反平行な列を形成するレーニング相を得た。さらにレーニング相における密度ゆらぎを解析し、自己駆動粒子の秩序相に特徴的な異常密度ゆらぎを得ることができた。異常密度ゆらぎのべき指数は、流体相互作用を強くすると減少することが分かった。またバクテリアの空間相関を解析して集団運動のパターンを特徴付けた。 (2) 走化性によるクラスター形成のモデルについては、連続空間・連続時間モデルを用いて、バクテリアの運動速度、密度、走化性感受率をパラメータとした動的相図を作成した。この結果について学会発表1件を行った。また、クラスター内のネマティック秩序変数を解析し、クラスターの形状の異方性によらずバクテリア集団は高い方向秩序を持つことを確認した。また走化性応答の時間特性について、遅延時間や応答関数の形状を変えて数値シミュレーションを行った。 (3) バクテリアカーペットの動的相転移に関しては、バクテリアの方向場を2次元的に制約したモデルを用いて、チャネル状の閉塞流路内での流動パターンを解析した。流動場の空間相関関数の解析から、パターンの特徴的なサイズがチャネルの高さに比例して変化することを見出した。またノイズを加えたときの秩序相から無秩序相への相転移を、チャネル閉塞系に関しても再現することができた。転移点はチャネル幅を狭くすると低ノイズ側にシフトした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
(1) 遊泳バクテリアの集団運動に関しては、流体相互作用を遠方と近接相互作用に分けて扱うハイブリッド法の実装が進んでいない。遠方に関してはスペクトル法を実装したが、近接粒子に関して直接計算を行った場合の重複分の扱いについて効率的な数値計算アルゴリズムを検討中である。 (2) 走化性によるクラスター形成のモデルについては、バクテリアの細胞分裂による増殖の数値シミュレーションへの実装に時間を要している。また走化性応答の時間特性について、遅延時間や応答関数の形状を変えたところ、巨視的なパターンの変化は見られなかった。これは応答時間に比べてクラスター形成の時間スケールが大きいためであると考えられる。巨視的なパターンに影響を及ぼす他の微視的な特徴を抽出、検討する必要がある。 (3) バクテリアカーペットの動的相転移に関しては、バクテリアの不均一性や、バクテリアの方向自由度の制約の影響についても解析する予定であった。これらについて数値計算シミュレーションは実装できたが、他の課題に計算機資源を要したため計算の実行および結果の解析を行えていない。 (4) 基板上のバクテリアの滑走運動の解析に関しては進展がなかった。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 遊泳バクテリアの集団運動については、流体力学相互作用の扱いを精密化し、近接した個体間では直接計算、遠方の個体間では流れ場をスペクトル法により計算するハイブリッド法を採用する。固体壁との境界条件をモデルに取り入れ、バクテリアを容器内に閉じ込めた場合や障害物がある場合の集団運動を解析する。また、バクテリアが流体に及ぼす力の双極子モーメントをパラメータとして巨視的なパターンの変化を解析する。 (2) 走化性バクテリアの集団運動に関しては、バクテリアの分裂、増殖の数値シミュレーションへの実装を完成させ、数値計算および結果の解析を行う。バクテリアの運動速度、密度、走化性感受率に加えて増殖率をパラメータとした動的相図を作成する。また、走化性応答に関して、時間特性以外の巨視的なパターンに影響を与える特性を探索する。 (3) バクテリアカーペットの動的相転移に関しては、バクテリアの不均一性や、バクテリアの方向自由度の制約の影響について、数値計算および結果の解析を行う。不均一性に関しては2種類のバクテリアが混在した系の数値計算を行い、相転移の挙動を既報の実験結果と比較する。 (4) 基板上のバクテリアの滑走運動に関しては、レプテーションアルゴリズムを改良し、高密度の場合の自由滑走のシミュレーションを行う。また、界面に末端を固定したバクテリアの波打ち運動について、個体長、屈曲長、密度、自己駆動力をパラメータとして波打ち運動の振動数や波数の変化を解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
移動制限および研究計画の進捗状況により学会発表ができなかった課題がある。これら課題の研究成果発表に必要な学会参加費などに充当する。
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