最終年度は、前年度までに得られた結果の精緻化を目的とする補助事業期間延長を受けて、以下の研究を実施した。 (1) 遊泳バクテリアの集団運動については、流体力学相互作用のスペクトル法(高速 Fourier変換)による数値解析手法を改良した。具体的には、離散的な粒子の配置を数値格子上の密度場に換算する際に、平滑化関数を導入して、一定距離以内の格子点に重みを付けて密度を配分するようにした。また、Green 関数として Rotne-Prager-Yamakawa テンソルを用い、粒子のサイズの効果を取り入れるようにした。これらの改良を踏まえ、前年度に行った解析を再実行した。バクテリアの数密度が一定の区間にあるとき、バクテリアが互いに反平行な列を形成するレーニング相が得られた。また、レーニング相における密度ゆらぎを解析し、自己駆動粒子の秩序相に特徴的な異常密度ゆらぎを得た。異常密度ゆらぎのべき指数は、流体相互作用を強くすると減少することが分かった。 (2) 走化性によるクラスター形成のモデルについては、バクテリアの細胞分裂を取り入れてモデルを拡張した。具体的には、各バクテリアが一定の分裂確率で前後に二体に分裂する効果をシミュレーションモデルに組み込んだ。分裂に伴う他のバクテリアとの衝突については、バクテリア間の斥力相互作用を剛体壁ポテンシャルからソフトポテンシャルに変更することで実装した。分裂確率をパラメーターとしてバクテリア集団のパターンを解析した結果、配向秩序を持つ異方的なクラスターの形成が細胞分裂によって促進されることが判明した。バクテリアの運動速度、密度、走化性感受率に加えて分裂確率をパラメータとするクラスター形状の動的相図を作成した。
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