研究課題/領域番号 |
18K03449
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
島田 尚 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (90431791)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 頑健性 / 安定性 / 多様性 / 生態系 / 土壌微生物群集 / 社会・経済系 / 感染接触項 / Wikipedia |
研究実績の概要 |
本研究では、研究代表者が近年発見し連携研究者と共に研究を進めて来た開放進化系の複雑性-頑健性関係(T. Shimada, SREP 4, (2014) 4082. 等)についての理論研究を発展させ、この理論的枠組みの現実問題への適用に挑戦する。具体的には、(1)理論の基としてきた簡単な模型について、その枠組みをもとにより複雑な数理モデル群との接続を試み、また(2)土壌微生物生態系や社会系などの現実系の解析によって理論的枠組み適用の妥当性を検証する。これにより土壌微生物生態系のみならず生体系、生物生態系、社会・経済系等の現実の開放進化系の普遍な性質についての理解を深める事を目的としている。
今年度の成果としてはまず、社会系における複雑な相互作用関係の理解のため昨年度に着手した Wikipedia の編集関係ネットワークの解析を進め、生態系の理論で議論されて来た構造の分析をしたほか、再帰的に定義された記事と著者の重要性指標を提案しその有用性を示した。この成果については論文にまとめて投稿し、現在査読中である。 また本研究計画にも障害となっている COVID-19 感染拡大事象を奇貨とすべく、都市圏主要部での人手の増減と感染拡大率との関係をポピュレーションダイナミクスモデルに基づいて解析した。ここから、A)このようなモデルを基盤としたアプローチにより一般には推定が難しい「感染から報告までの遅れ時間」がロバストに推定できること、B)生態系のモデルとして重要な接触項が、人-人接触については Lotka-Volterra型からずれていることが明白で、そのずれは人の主体的行動の結果を示唆していること、をそれぞれ発見した。この結果については学会や紀要、アーカイブに速報し、現在投稿論文を準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は上記のように、理論研究推進の中心として機能してきた短期滞在研究と土壌微生物群集についての新規データ取得の両面においてCOVID-19感染拡大の影響が大きく、計画の実施については遅れや変更を余儀なくされた。 一方で、時差を乗り越えてやりくりした多数のリモート議論や、COVID-19 感染事象データを活用した解析など、工夫して当初予定に無かった新しい方向での展開を図ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
COVID-19 感染拡大の影響のため、当初研究計画の中心であった短期滞在研究による理論研究の推進と、新たな土壌実験の実施によるデータの取得の両方が困難な状況であり、次年度についても先が見通せない状況である。 上記の工夫により理論研究の継続と成果の論文化はある程度順調に進んでいるので、この工夫を基本に状況に応じ柔軟に研究を実施してゆく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
理論研究推進の核として初年度次年度共に実施し成果を挙げてきた Kimmo Kaski 教授、Janos Kertesz 教授らとの短期滞在研究が COVID-19 の世界的感染拡大の影響により本年度は実施できなかった。また、土壌微生物系の新しい実験なども依頼が難しくなった。このため、これらに対応する経費を次年度に使用することとした。次年度の状況にも不透明な部分は大きいが、極力実施して研究を推進したいと考えている。
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