研究課題/領域番号 |
18K03450
|
研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
出口 哲生 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 教授 (70227544)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 可積分量子系 / 孤立量子系 / 多体局在 / 非平衡ダイナミクス |
研究実績の概要 |
有限の可積分量子系の任意の初期状態に対して、時間発展を導くことが出来るか? という問題に関して研究した。可積分量子系では原理的には長時間の時間発展を厳密に追跡可能で、量子ダイナミクスの様々な研究が期待される。与えられた状態をベーテ固有状態の和で表すことができれば、厳密な時間発展が導かれるが、しかし、任意の状態をべーテ固有状態で表す方法はまだ確立されていない。2018年度は、スピン1/2の量子XXX鎖における下向きスピン2個のセクターで、具体的に任意の量子状態をべーテ状態の和で表す研究を行った。スピン1/2の量子XXX鎖のギャップ領域における下向きスピン2個のセクターで、XXZ異方性変数Δや格子点数Nを変化させると、束縛状態の状態の数が変化することを厳密に示し、論文として発表した。 べーテ固有状態における物理量の期待値はスラブノフのスカラー積公式により行列式で表され、格子点数1000 でも系の時間発展を導くことが原理的に可能である。しかし現在、べーテ方程式の実解に関してのみこれを実行できる。可積分系の励起状態にはべーテ方程式の複素束縛解(ストリング解)も対応するが、その数値的取扱いは非常に難しい。2018年度は、下向きスピン2個の場合に、ベーテ固有方程式の特異解に対応する固有ベクトルのノルムの行列式表示を導出した。 可積分量子系の現実の系において、非可積分性とランダム性がどのように影響するか、という問題に関しても研究した。非可積分相互作用を含む量子XXZ鎖にランダム磁場などランダム性を加えると、多体局在が生じることが最近示された。これは多体系にランダム性が存在する場合に生じる局在現象である。スピン1/2の量子XXZ鎖において、XXZ異方性変数Δを変化させて多体局在を数値的に探索し、論文を出版した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、以下のような4つのテーマで研究成果を導いた。そのうち2個のテーマに関して、論文を出版した。 (1) スピン1/2の量子XXX鎖における下向きスピン2個のセクターで、具体的に任意の量子状態をべーテ状態の和で表す研究を行った。 (2) スピン1/2の量子XXX鎖のギャップ領域における下向きスピン2個のセクターで、XXZ異方性変数Δや格子点数Nを変化させると、束縛状態の状態の数が変化することを厳密に示し、論文として発表した。 (3)下向きスピン2個の場合に、ベーテ固有方程式の特異解に対応する固有ベクトルのノルムの行列式表示を導出した。(4) スピン1/2の量子XXZ鎖において、XXZ異方性変数Δを変化させて多体局在を数値的に探索し、論文を出版した。
|
今後の研究の推進方策 |
2018年度に導かれた(1)から(4)の4つの研究成果の中で、(1) スピン1/2の量子XXX鎖における下向きスピン2個のセクターで、具体的に任意の量子状態をべーテ状態の和で表す研究、および、(3)下向きスピン2個の場合に、ベーテ固有方程式の特異解に対応する固有ベクトルのノルムの行列式表示を導出、の二つの研究に関してまだ論文をまとめていない。今後の研究の推進方策としては、まずはこの二つの成果に関する論文を作成することが最初の課題である。
|