研究課題/領域番号 |
18K03451
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
家富 洋 新潟大学, 自然科学系, 教授 (20168090)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 有向ネットワーク / 流れ構造 / 階層性 / 循環性 / Helmholtz-Hodge分解 / 蝶ネクタイ構造 |
研究実績の概要 |
本研究は,有向ネットワーク上の流れ構造の階層性および循環性に焦点を当て,解析手法を開発するとともに,得られた手法をいくつかの現実系へ適用することを目的としている。今年度の研究実績は次のとおりである。 1)本研究で根幹をなすHelmholtz-Hodge分解について理解を深めるため,東京商工リサーチ社のデータベースに基づく企業間取引ネットワークに対応したランダム有向ネットワーク(Erdos-Renyiモデル)を例題に,その数理的性質を数値的に調べた。その結果,Helmholtz-Hodgeポテンシャルの分布が正規分布で精度良く表現できることを見出した。 2)Thomson Reuters社のデータベースから2007年から2017年にわたって年次で世界規模の株所有ネットワークを構築した(各国市場の上場企業数および時価総額をほぼ再現することから,データの網羅性を確認)。ネットワークのノードは企業および株主,リンクの向きは株主から所有企業の方向であり,その重みは持ち株の時価とした。構築されたネットワークの解析によって,各国の株所有関係における階層的位置づけ,各国における株主種別分布,国レベルでの相互株所有関係,米国における3大資産運用会社の寡占の進行状況などを明らかにし,世界における富の集積状況について議論した。 3)OECDによって提供されている各国の産業連関表から構築される有向ネットワークに対して,Helmholtz-Hodge分解を適用することにより,ネットワークの階層流構造と循環流構造とを抽出し,産業連関構造の国際比較を行った。各国の階層流構造には共通性が高いことを,特異値分解を使っての情報縮約によって確認した。対照的に,主要な循環流には各国の個性が如実に映し出される(日本では自動車産業ループや健康・医療ループ,米国では教育関連ループ,ドイツでは再生エネルギー産業ループなど)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ禍に対応するために他の業務(オンライン講義の導入準備など)と当該プロジェクトの実施について調整する必要があったが,解析手法の開発,現実の有向ネットワーク系への開発手法の応用とも,ほぼ当初の計画に従って研究を進めることができた。Robert McKay教授(University of Warwick)を代表とする英国研究グループとの研究交流は,昨年来継続しており,本研究を国際化するにあたって大いに役立っている。
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今後の研究の推進方策 |
コロナ禍によって研究期間を1年間延長した。これまで実施した研究の成果のとりまとめはもちろんのこと,この機会を利用して,研究計画をさらに進める。特に次の研究課題に力点を置く。 1)Helmholtz-Hodge分解についての数理的理解をさらに深化させる。Helmholtz-Hodgeポテンシャルは連立一次方程式で与えられ,その係数行列はグラフ・ラプラシアンである。そのため,ラプラシアン行列の逆行列に関する数理的性質を調べれば、ポテンシャルの分布を明らかにできると期待される。また,ランダムネットワークのみならず,より現実に即したスケールフリーネットワークに対してHelmholtz-Hodgeポテンシャルの分布を解析する。 2)昨年度実施したグローバルスケールでの株所有ネットワークの研究をさらに発展させ,海外直接投資(FDI)に基づく国際関係の時間的変遷を企業・投資家レベルで追跡する。 3)昨年度から継続し,ブログやSNSなどのソーシャルメディア上で形成されるエコーチャンバーの構造および形成過程について,ネットワークの蝶ネクタイ構造や流れの循環性の視点から明らかにする。 4)有向ネットワーク上の流れ構造を解析するための統合ツール(FALCON)の普及を含めて研究成果を積極的に発信する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の広がりが依然として収束せず,参加を予定していた国際会議や学会などがキャンセルされたり,オンライン開催となったため,主として計上していた旅費を繰り越す次第となった。繰越予算は次のように使用する計画である。 1)現在使用中のワークステーションが老朽化していることから,新しいワークステーションを購入することにより,計算環境を整備し,研究の効率化・円滑化を図る。 2)年度の後半には,世界的にワクチン接種が進み,コロナ禍が収まっていくと期待され,国際会議や学会へ直接参加することを予定している。 3)論文をオープンアクセス化し,研究成果を広く公開する。
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