研究課題
ノードとそれらをつなぐ向き付きのリンクから構成されネットワーク上には,様々な流れ構造が存在する。本研究の目的は,そのような有向ネットワーク上の流 れ構造を,特に階層性と循環性に注目し,解析に必要な手法を開発するとともに,得られた解析手法をいくつかの応用上も重要な現実の有向ネットワーク系へ適 用することである。本年度の研究実績は次のとおりである:1)トムソン・ロイター社のデータベースから2007年から2017年にわたって年次で構築された世界規模の株所有ネットワークに対して,ネットワークフロー解析 によって得られた研究成果(各国の株所有関係における階層的位置づけ,各国における株主種別分布,国レベルでの相互株所有関係,米国における3大資産運用 会社の寡占の進行状況など)を論文としてとりまとめ,公刊した。2)ランダム有向グラフにおけるボウタイ構造形成が,次数分布,ターミナルノード(入力エッジあるいは出力エッジのどちらか一方のエッジしかもたないノー ド)の割合,ならびに各ノードの入次数と出次数との相関にどのように依存するかを数理的に明らかにした。3)ブログやSNSなどのソーシャルメディア上で形成されるエコーチャンバーの構造および形成過程をネットワークの蝶ネクタイ構造や情報流の階層性・循環性 の視点から明らかにし,その解析結果を論文として公刊した。4)現在使用中のワークステーションが老朽化していたことから,新しいワークステーションを購入することにより,計算環境を整備し,研究の効率化・高速化 を図った。
2: おおむね順調に進展している
昨年度と同様に,解析手法の開発,現実の有向ネットワーク系への開発手法の応用とも,ほぼ当初の計画に従って研究を進めることができた。
コロナ禍によって研究期間を1年間追加延長した。まず,本研究で得られた研究成果(特に,Helmholtz-Hodge分解についての数理的理解,産業連関フローネットワークにおける階層・循環構造の国際比較などについて)の論文化を進める。研究実施面においては,海外直接投資について企業レベルでの分析を可能とすることに着眼する。予備的分析によれば,海外直接投資の通常の定義(持ち株比率10%以上)では,対日直接投資は非常に低い。他方,日本株全体の外国人保有率は継続して高まり,30%(究極的所有では45%)程度に達している。それらの違いと我が国特有の株持ち合い構造(ネットワーク理論では強連結成分)との関係を調べる。また,リフィニティブ社のデータベース(トムソン・ロイター社から移譲)に基づく株所有ネットワークデータを2020年まで更新し,世界規模での株所有関係に対する新型肺炎ウィルスの感染爆発の影響の分析も視野に入れる。以上の研究推進方策により,延長された研究期間を有効に用いる。
新型コロナウイルス感染症の広がりが収束せず,年度末に開催された日本物理学会が急遽オンライン開催となったため,その旅費が未使用となった。残額は,今年度末に東北大学で開催予定の日本物理学会に参加するための旅費として使用予定である。
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In: Ikeda, Y., Iyetomi, H., Mizuno, T. (eds) Big Data Analysis on Global Community Formation and Isolation. Springer, Singapore
巻: --- ページ: 63--92
10.1007/978-981-15-4944-1_3
巻: --- ページ: 143--190
10.1007/978-981-15-4944-1_6
巻: --- ページ: 191--216
10.1007/978-981-15-4944-1_7
巻: --- ページ: 501--511
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