研究課題/領域番号 |
18K03452
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
鈴木 淳史 静岡大学, 理学部, 教授 (40222062)
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研究分担者 |
国場 敦夫 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (70211886)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 量子転送行列 / 熱的形状因子展開 / 動的相関関数 / 動的構造因子 / 完全WKB法 / Fredholm行列式 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、量子転送行列法を動的に拡張し、完全WKB法と組み合わせる事により、低次元量子系の平衡系および非平衡系における動的相関関数の定量的評価に新しい枠組みを構築することを目的とする。熱的形状因子展開に基づく昨年度までの研究による定式化では、無限次元行列であるFredholm行列式による表示が重要な役割を果たしていた。そのため、動的相関間数を粒子・ホール型励起の数で分類し、それぞれのセクターにおいてFredholm行列式を数値的に評価する必要があり、そこでの数値的誤差の可能性を排除できなかった。実際、標準的な数値的方法(t-DMRG)との比較でスピン間隔が奇数である場合に, 時間tが交換相互作用Jの数倍のオーダーになるあたりから、我々の結果とわずかな差異が生じる事がわかった。この差がFredholm行列式、t-DMRGのいずれの数値的誤差に起因するかをはっきりさせるため、動的相関関数の表式に現れるFredholm行列式の比に注目した。それぞれのセクターでのこの比の有限次元行列による表式を導出し、これにより任意の数の粒子・正孔型励起に関して、厳密な動的相関関数の解析解を導出する事に成功した。非自明な相互作用系でこのように顕な表式が得られた事は画期的である。この結果を数値的手法(t-DMRG)による結果と比較し、長時間による高精度な一致が得られることを確認した。またt-DMRGでは手の届かない動的構造因子を精密に厳密に評価することにも成功し、この結果はPhys. Rev. Lettに掲載された。ここまでは一点に作用する演算子同士の相関関数に関する結果であるが、近年話題となっている量子スピン系での輸送現象への応用を視野に入れ、多点に作用する演算子の相関関数に研究をさらに進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ゼロ温度において、世界で初めて、動的相関関数に対する無限次までの厳密な解析的な表式を導出するだけでなく、純粋に数値的な手法(t-DMRG)での結果と定量的に比較し、高い精度での一致が確認できた。またt-DMRGの及ばない輸送係数の評価や多点相関の評価を可能なように定式化を発展させた事は大きな成功と言える。しかしながら量子系の非平衡時間発展まで研究がおよばなかった点が反省材料である。
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今後の研究の推進方策 |
ゼロ温度によって得られた結果を有限温度に拡張することが大きな課題であり、これを解決するためkinematic poleとよばれる解析的特異性を回避する方法を、XX模型のとき経験を利用して模索する。さらにKPZ模型などの非平衡界面の成長模型や一般化された流体力学との関係から、大きな関心をよんでいる高温極限での動的相関関数の解析を進めていきたい。さらに、懸案である熱力学的な典型的な初期状態からのクエンチ系での、特にエンタングルメントの動力学の解析を進めていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度予定していた海外出張がコロナウイルスのため取りやめになったため次年度使用額が生じた。次年度に、老朽化している計算機関係の設備を更新してこれを使用する
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