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2019 年度 実施状況報告書

動的ネットワークの汎用モデルの構築とその一般理論

研究課題

研究課題/領域番号 18K03453
研究機関静岡大学

研究代表者

守田 智  静岡大学, 工学部, 教授 (20296750)

研究分担者 吉村 仁  静岡大学, 工学部, 教授 (10291957) [辞退]
伊東 啓  長崎大学, 熱帯医学研究所, 助教 (80780692)
泰中 啓一  静岡大学, 創造科学技術大学院, 客員教授 (30142227)
研究期間 (年度) 2018-04-01 – 2021-03-31
キーワード複雑ネットワーク / ネットワーク科学 / 伝播モデル / 生態系モデル
研究実績の概要

ランダム乗算過程をネットワークに組み込み,動的モデルを構築する目標に向かって研究をおこなっている.ランダム乗算過程において変数の変動範囲に下から制限を設けた場合,変数が冪分布に従うことが知られているが,この事実をスケールフリーネットワークと統合して理解することで動的ネットワーク理論を構築しようという試みである.今年度は,応用面での研究に大きく進展があった.とくに性感染症モデルにおける性接触ネットワークの影響を確かめる研究が進展した.一つは実際の性接触ネットワークがどのような特徴を持っていっているかに関してインターネット上のアンケートを用いて調査したことである(Ito et al. 2019. PLOS ONE).ここで得られたデータの解析から日本における性接触する異性の人数の分布が、男女ともに冪分布に従う(ネットワークがスケールフリー性を持つ)ことが確かめられた.また諸外国での先行研究との比較することで,日本は性感染症のリスクが高いことが示唆された.今後の理論面での研究にこのデータを活用していく予定である.さらに性感染症の数理モデルを構築し,スケールフリー性のある水平感染と世代を超えるショートカットである垂直感染の影響を比較した(Ito et al. 2019. Sci. Rep.).ここでは「子供」と「成人女性」と「成人男性」の3つのコンパートメントに分けたモデルを用いて,それぞれのタイプ別再生産数を定式化した.その結果,効果的な予防ワクチンが存在する場合には,男性ではなく女性にワクチン接種を集中させるのが効率的であるという知見が理論的に導かれた.逆に感染するウイルス側の進化的適応として見た場合,女性から男性に感染する率を上げるより,男性から女性に感染する率を上げたほうが有利に働くという傾向があるという性感染症の動学として興味深い傾向が示唆された.

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本研究の目的は,多くの学術分野にわたって応用されるような動的ネットワークモデルを構築し,その一般的理論を整備していくことである.平成30年度の段階で抽象的なモデリングの理論研究(Morita 2018. JPSJ)と当初計画では主に次年度でおこなう予定であった応用面での研究(Ito, et al. 2019. Appl. Math. Comp.)の2つのアプローチから大きく進展したことは昨年度の報告書にも記した通りである.令和元年度は,とくに応用面での研究が大きく進展した.本研究課題の分担者である長崎大学熱帯医学研究所の伊東らとの共同研究が2報の論文が比較的インパクトの高い学術誌に掲載された(Ito et al. 2019. PLOS ONE; Ito et al. 2019. Sci. Rep.).前者の論文は性接触ネットワークについての実データを取り扱った論文であり,今後のネットワーク理論の発展に重要な寄与がある.後者は前年度の研究をさらに発展させたものであり,理論疫学の分野で基本再生産数に変わって着目されるようになっているタイプ別再生産数という指標を定式化したものである.いずれも社会医学・公衆衛生学の分野への重要度も高く,大学ジャーナルのオンライン版でもインパクトのある研究として取り上げられていた.上記の結果は8月に北京で行われた数理生物学の国際会議で招待講演として発表し,内外の研究者にアピールできたと自負している.動的ネットワークの数学的な厳密な公式化については,まだ論文として投稿していないものの,進展しており令和2年度の早い時期に完成する予定である.

今後の研究の推進方策

まずはランダム乗算過程を用いたネットワークモデルの構築を完成させる.いままでに試みた連続時間モデルへの拡張・一般化ではなく,離散時間モデルでのモデル構築に集中していく.現実にあるデータは多くが離散的であることを考えると,離散時間モデルのほうが有効性が高いとも言える.本研究課題では分野横断的な汎用モデルの構築を目指しており,他分野に波及させていく場合もエレガントなものよりシンプルでわかりやすいモデルのほうが好まれると考えている.また,最初の2年間で進んだ性接触ネットワークモデルの研究もさらに進展させていく.これまでのモデルは冪乗分布を外的に与えているが,冪乗分布が自己組織的に成立していくモデルに拡張していく.また公衆衛生の重要な問題である性感染症の伝播過程をより明確に記述する数理モデルを構築する.この数理モデルを解析することにより性感染症抑制のための政策提言も可能になるだろう.また長期的な性感染症の進化についても考察する.性感染症を始めとする感染する細菌・ウイルスは,その蔓延の後の弱毒化という現象が知られているが,その詳細な進化メカニズムも解明する.感染症の進化としてより重要な問題に薬剤耐性の進化があるが,この問題についても考察していきたい.これらの現象は,ネットワークの動的構造とネットワーク上の個体の共進化として捉えることができる.感染症伝播,進化ゲーム,さらにリスク・情報・文化の伝播に幅広く応用できる汎用的数理モデルを構築することを目指している.

次年度使用額が生じた理由

3月に参加予定であった研究会が新型コロナウイルス感染対策のため急遽中止になり,出張旅費として使用する予定であった経費が残ってしまったため,残額は出張旅費として次年度に使用する.

  • 研究成果

    (13件)

すべて 2020 2019

すべて 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 1件、 査読あり 7件、 オープンアクセス 7件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 2件、 招待講演 2件)

  • [雑誌論文] The type-reproduction number of sexually transmitted infections through heterosexual and vertical transmission2019

    • 著者名/発表者名
      Ito Hiromu、Yamamoto Taro、Morita Satoru
    • 雑誌名

      Scientific Reports

      巻: 9 (17408) ページ: 1~13

    • DOI

      10.1038/s41598-019-53841-8

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Is the network of heterosexual contact in Japan scale free?2019

    • 著者名/発表者名
      Ito Hiromu、Tamura Kazuhiro、Wada Takayuki、Yamamoto Taro、Morita Satoru
    • 雑誌名

      PLOS ONE

      巻: 14 (e0221520) ページ: 1~12

    • DOI

      doi.org/10.1371/journal.pone.0221520

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Demography of sexually transmitted infections with vertical transmission2019

    • 著者名/発表者名
      Ito Hiromu、Yamamoto Taro、Morita Satoru
    • 雑誌名

      Applied Mathematics and Computation

      巻: 348 ページ: 363~370

    • DOI

      doi.org/10.1016/j.amc.2018.12.002

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] A single ‘weight-lifting’ game covers all kinds of games2019

    • 著者名/発表者名
      Yamamoto Tatsuki、Ito Hiromu、Nii Momoka、Okabe Takuya、Morita Satoru、Yoshimura Jin
    • 雑誌名

      Royal Society Open Science

      巻: 6 ページ: 191602~191602

    • DOI

      10.1098/rsos.191602

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Bankruptcy is an inevitable fate of repeated investments with leverage2019

    • 著者名/発表者名
      Nii Momoka、Okabe Takuya、Ito Hiromu、Morita Satoru、Yasuda Yosuke、Yoshimura Jin
    • 雑誌名

      Scientific Reports

      巻: 9 (13745) ページ: 1~5

    • DOI

      10.1038/s41598-019-50237-6

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Grazing enhances species diversity in grassland communities2019

    • 著者名/発表者名
      Pulungan Muhammad Almaududi、Suzuki Shota、Gavina Maica Krizna Areja、Tubay Jerrold M.、Ito Hiromu、Nii Momoka、Ichinose Genki、Okabe Takuya、Ishida Atsushi、Shiyomi Masae、Togashi Tatsuya、Yoshimura Jin、Morita Satoru
    • 雑誌名

      Scientific Reports

      巻: 9 (11201) ページ: 1~8

    • DOI

      10.1038/s41598-019-47635-1

    • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
  • [雑誌論文] Mass killing by female soldier larvae is adaptive for the killed male larvae in a polyembryonic wasp2019

    • 著者名/発表者名
      Otsuki Takahiro、Uka Daisuke、Ito Hiromu、Ichinose Genki、Nii Momoka、Morita Satoru、Sakamoto Takuma、Nishiko Maaya、Tabunoki Hiroko、Kobayashi Kazuya、Matsuura Kenji、Iwabuchi Kikuo、Yoshimura Jin
    • 雑誌名

      Scientific Reports

      巻: 9 (7357) ページ: 1~7

    • DOI

      doi.org/10.1038/s41598-019-43643-3

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] Basic Reproduction Number of Sexually Transmitted Infections with Mother-to-Child Infection2020

    • 著者名/発表者名
      Satoru Morita, Hiromu Ito, Taro Yamamoto
    • 学会等名
      International school and Conference on Network Science
    • 国際学会
  • [学会発表] 母子感染と性ネットワークを考慮した性感染症拡散モデル2019

    • 著者名/発表者名
      伊東啓,山本太郎,守田智
    • 学会等名
      第35回個体群生態学会大会
  • [学会発表] 母子感染を考慮した性感染ネットワーク拡散モデル2019

    • 著者名/発表者名
      守田智,伊東啓,山本太郎
    • 学会等名
      2019年度日本数理生物学会大会
  • [学会発表] 直感染を含む性感染伝播のネットワーク拡散モデル2019

    • 著者名/発表者名
      守田智,伊東啓,山本太郎
    • 学会等名
      日本物理学会2019年秋季大会
  • [学会発表] 複雑ネットワーク上の伝播現象について2019

    • 著者名/発表者名
      守田智
    • 学会等名
      第2回数理生物学夏の学校
    • 招待講演
  • [学会発表] Sexually transmitted infection models with mother-to-child infection2019

    • 著者名/発表者名
      Satoru Morita
    • 学会等名
      The 7th China-India-Japan-Korea International Conference on Mathematical Biology
    • 国際学会 / 招待講演

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公開日: 2021-01-27  

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