研究課題/領域番号 |
18K03455
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
戸塚 圭介 京都大学, 基礎物理学研究所, 准教授 (80291079)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | トポロジカル相 / 強相関系 / 量子ホール効果 / 冷却原子気体 |
研究実績の概要 |
課題のひとつの柱である、優れた制御性を持つアルカリ土類冷却原子気体を用いた低次元強相関トポロジカル相の研究、特に「対称性に護られたトポロジカル相(SPT相)」の研究を行った。最近、フランスのグループと共同で、二重井戸型光格子に閉じ込められたアルカリ土類様原子気体(フェルミオン)を用いることにより、さまざまなSU(N)対称性に護られたSPT相が実現可能であることを理論的に示したが、今回新たに空間反転対称性を自発的に破るタイプのSPT相も実現可能であることがわかった。また、冷却原子気体では、SU(N)のNを(少なくともN=10までは)自由に制御可能であるが、異なるNに対する相図を完成させた。これらの結果を踏まえ、現在二重井戸光格子を用いたSU(N)磁性の実験を進めている京大物理教室の量子光学研究室と活発に情報交換を行い、国際会議、海外の研究室でのセミナーなどを行った。 二次元、三次元の強相関トポロジカル相をよりよく理解するためのひとつのアプローチとして、一次元鎖を並べてその間の相互作用をコントロールすることにより望みのトポロジカル相を構成するという方法(coupled-wire構成法)がある。この方法では通常、適切に相互作用を選ぶことにより目指すトポロジカル相に期待されるエッジ状態が生成されるかどうかを調べることに主眼が置かれるが、新しい素性のよくわかっていないトポロジカル相の研究などに適用するためには、どのようにしてバルクに非自明な状態が生成されるのかを調べる方法を整備しておく必要がある。このテーマに関して、2018年度に基研に客員教授として滞在したHansson氏、大学院生の今村氏と共同で、可換なゲージ群の構造を持つ2次元のトポロジカル相のケースを詳細に考察し、coupled-wire構成法の枠内で、正しくバルクの非自明なゲージ理論が生成されることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
冷却原子の課題については、基本的アイデア、相図などの結果をまとめた論文をPhysical Review Bに出版した。また、幸い、同様の系を用いた実験が京大物理教室で進行中であるので、情報交換を行うことにより実験のセットアップに即した状況での相図などを作成するプロジェクトも進行中である。 高次元トポロジカル状態のcoupled-wire構成法については、可換なゲージ群の構造を持つ2次元トポロジカル相の場合の結果をまとめた論文をPhysical Review Bに投稿済みである。予定では、非可換なゲージ群の場合の研究も本格的にスタートする予定であったが、これについては、国際会議などでの専門家との議論からいくつか事前にクリアすべき課題があることはわかり、まだ予備的研究の段階にある。高次元トポロジカル相への拡張などについても現在研究が進行中である。
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今後の研究の推進方策 |
アルカリ土類様冷却フェルミ原子気体のボゾン的トポロジカル相については、理論的にはだいぶ状況が明らかになってきたので、今後の展開としては、2つの方向を考えている。ひとつは、実験グループと連携しながら、これらのトポロジカル相の実験的検証を睨んだ研究、たとえば、実験のセットアップに近い状況での相図の作成、物理量の計算などである。もうひとつは、電子スピンではなく、核スピン由来のSU(N)対称性を持つフェルミオン的なトポロジカル相の研究である。これにより、冷却原子系のトポロジカル相について、より包括的な理解が進むと思われる。 coupled-wire構成法などに基づく強相関トポロジカル相の研究では、昨年度確立した2次元トポロジカル相のバルクの研究手法を3次元に拡張することを目指す。また、従来よく知られてきたChern-Simons型のゲージ理論とは異なるゲージ理論に支配されるフラクトン・トポロジカル相などの場合にも同様のアプローチが可能か調べたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度予定していた出張のうち大部分が先方による招待であったため、旅費等の執行計画に変更が発生したため。ただし、次年度使用額は少額であるため、次年度使用計画に特段の変更は必要ないと思われる。
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