研究課題
優れた制御性を持つアルカリ土類冷却原子気体を用いたSU(N)対称性を持つ強相関系の新奇物性を調べてきたが、これに関連して、2次元正方格子上でリング交換相互作用と呼ばれる3つのスピンの巡回置換に関係する相互作用のあるSU(N)スピン模型の基底状態で実現することが期待される「カイラルスピン液体」の研究を行った。数値的厳密対角化、密度行列くりこみ群、テンソルネットワークなどの手法で得られた結果を、場の理論の予言と精密に比較することにより、有限なパラメータ領域で、実際にこの系の基底状態は、分数量子ホール状態に類似のカイラルな端状態を持つ、トポロジカルなスピン液体であることをN=8以下の場合について示すことに成功し、その結果をPhysical Review B誌に出版した。トポロジカルなバンド構造を持つ磁気的励起で特徴づけられる絶縁体は、トポロジカル絶縁体、チャーン絶縁体の磁気的類似物と見なすこともでき、「マグノニクス」の観点からも関心を集めている。しかし、トポロジカルに非自明な磁気励起により引き起こされると理論的に予言されている熱的なホール効果については、実験的に検証された例は余り多くなく、磁気励起間の相互作用を無視するなど、さまざまな近似に基づく理論の現実的な系における妥当性の検討が待たれていた。今回京大物理の松田グループと共同で、理論的に大きな熱ホール効果が予想される2次元直交ダイマー磁性体について理論と実験の詳細な定量的比較を行った。その結果、この系では理論的予想に反して熱ホール効果が実験精度の範囲でゼロであること、この結果には熱的に励起されたボゾン間の相互作用が本質的に重要な役割を果たしており、ボゾン的な磁気励起に対してはチャーン絶縁体との類推がそのままでは成り立たない可能性を指摘した。
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Physical Review B
巻: 105 ページ: 024415-1,11
10.1103/PhysRevB.105.024415
巻: 104 ページ: 235104-1,33
10.1103/PhysRevB.104.235104