研究課題/領域番号 |
18K03459
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
大信田 丈志 鳥取大学, 工学研究科, 助教 (50294343)
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研究分担者 |
後藤 晋 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (40321616)
松本 剛 京都大学, 理学研究科, 助教 (20346076)
大槻 道夫 大阪大学, 基礎工学研究科, 准教授 (30456751)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 揺動応答関係 / 乱流 / 非平衡 / コロイド液体 / 2粒子変位相関 / 粘弾性モデル / 応答関数 / 時空構造 |
研究実績の概要 |
液体が濃密化に伴って流動性を失う現象を時空的な構造としてとらえる解析手法を発展させ、乱流の統計理論にその知見を還元することを目指して、今年度は6回にわたる会合をおこなった。特にそのうち1回は前年度と同様に研究会として開催した。最後の6回めは新型コロナウィルス感染症を防止するため遠隔会合とした。 濃密液体や乱流の時空構造を扱う理論には、内発的な揺らぎの程度を示す「相関関数」と、外発的な変化の起きやすさを示す「応答関数」が現れる。両者の対応関係は揺動応答関係と呼ばれ、熱平衡系では両者は等価であることが分かっているが、乱流のような非平衡系での揺動応答関係は自明ではない。 我々は、前年度までに行った乱流の数値計算の解析を進め、揺動応答関係が平衡系とは系統的に異なっていることを確かめた。それにもかかわらず、相関関数と応答関数の時間尺度(半減期)に着目し、その波数依存性を調べると、たとえばラグランジュ的な相関関数の半減期の波数依存性は対応する応答関数のものと同じになるという意味で両者の等価性が生き残ることも示された。 他方、液体の挙動を平衡状態で扱う場合には相関関数と応答関数の等価性が成り立っているはずで、特に1次元のコロイド液体で2粒子の変位相関を調べると、液体側(自由なブラウン粒子)と固体側(弾性鎖)の両方の極限で、よく知られた形の揺動応答関係が成り立つ。ところが、その中間の領域では、変位相関とそれに対応する応答との関係がわずかに修正を受けることが分かった。この結果は、変数の取り方によって揺動応答関係の見かけが変わり得る例となっている。 さらに我々は、2次元のコロイド液体における変位相関に着目し、これを粘弾性モデルの応答として表すことを試みた。試行結果を重ねた結果、変位相関の時間的な特徴と空間的な特徴を両方とも再現するモデルを見いだすことに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
会合の回数を前年度よりも増やし、研究自体には相当な進展があったものの、論文として投稿できるところまでは至らなかった。 主な原因は、理論的な計算の一部に想定外の不整合が生じ、その原因を突き止めるのに予想以上の時間がかかっていることによる。もともと前年度の研究実施状況報告書に書いたとおり日程的な事情で既に遅れが生じていたため、その遅れの影響を完全に取り戻すのは難しく、乱流理論についてもコロイド液体についても、論文原稿を年度内に仕上げるまでには至らなかった。さらに、本来であれば春休み中に学会発表等を通じて得られたはずのフィードバックも、今年は新型コロナウイルス感染症問題のために得られなくなり、研究の進捗に悪影響を及ぼしている。
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今後の研究の推進方策 |
まずコロイド系の2粒子変位相関を粘弾性モデルで記述する試みについては、多大な試行錯誤の結果、年度末にようやく不整合を解消することができた。この結果の数値的検証を進め、結果を早急に論文にまとめる。 乱流の揺動応答関係については、理論的な計算に困難が生じているが、ようやく困難を解消できる見通しが得られつつある。数値計算データの分析は既にほぼ済んでいるため、理論的な計算を早急に完成させて論文原稿を仕上げることを目指す。 なお、新型コロナウイルス感染症問題のために出張会合が実施しがたい状況がしばらく続くが、幸いオンラインでの討論については多少の経験の蓄積があるので、資料を共有しつつ短時間の遠隔会合を頻繁に開くなどして、研究を円滑に進められるようにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画では、大学の授業のない時期に集中して議論を行うための合宿セミナーに外部講師を招聘する前提で予算を組んでいたのに対し、実際の2019年夏のセミナーでは、外部からの講師を招くのは取りやめとし、内輪のメンバーによる理論的な計算の検討を主眼とするように計画を変更した。このために予算に余裕が生じたことと、支払請求書(F-2-1)を2020年2月に作成した時点では複数の国際会議への参加が予定されていたことから、余裕分を学会出張旅費に振り向けるような支出計画を策定した。 ただしその使用については、2020年5月現在、明確な見通しがつきにくい状況にある。2020年の夏に参加を予定していた国際会議は、いずれも2021年の夏への延期が発表されているため、本研究補助事業の期間延長も模索しつつ、まずは国際会議での研究成果発表に向けた論文投稿を目指して研究を進める。
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