研究課題/領域番号 |
18K03463
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
稲垣 紫緒 九州大学, 理学研究院, 准教授 (20452261)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 非平衡・非線形物理学 / 非平衡散逸系 / 粉粒体物理学 |
研究実績の概要 |
通常のブラウン運動は、揺動と散逸が釣り合っている熱平衡系での現象であり、物理学としてはほぼ完成した概念である。一方、非平衡定常条件下では、外部からのエネルギー流入から、物体同士の衝突等によるエネルギー散逸へ、状態量が一方向の流れを形成するために、特異的な時空間構造が自発的に発生する可能性がある。本研究では、このような非平衡散逸系の特質に迫ることを目的として、水平に置いた円筒容器に大きさの異なる2種類の粒子を充填し、回転させたときに誘起される粉粒体の動的な(相)分離現象について、実験・理論・数値計算を用いて総合的に探究する。実験によって分離パターンのドメイン間相互作用を定量的に評価し、実験的知見に基づいたモデル構築を目指す。
水平に置いた円筒容器に大きさや形の異なる2種類の粒子を封入して回転させると、粒子が縞々の状態にバンドを形成して分離する現象が観察されている。従来、動的安息角に大きく差がある粒子を組み合わせるとバンドが出やすい、と言われていた。実際には動的安息角に差がなくてもバンドが出る組み合わせも多いことから、粒子の比重やサイズを系統的に変えることで、バンド形成の現れる条件を定量的に明らかにした。
また、円筒容器にほぼ完全に粒子を充填したとき、バンドが数ミリ/分という非常にゆっくりとした速度で動くことがこれまでの我々の研究で見出されている。このバンドの動きは部分充填系でバンドが結合していく過程で動く速度より二桁ほど遅いため、バンドの動く起源が異なると予想される。高充填系において、非常にゆっくりとした対流構造の起源を明らかにするために、1種類の粒子を複数色に着色した後、高充填に詰めて回転させ、粉体媒質全体の流れ場を測定するのに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
回転円筒容器系における粉粒体の分離現象について、部分充填の場合には、バンド形成は動径方向の分離から軸方向の分離へ転移することによって起こるため、動径方向の分離が起こる条件と動径方向の分離から軸方向の分離へ転移する条件の2段階に分ける必要がある。動径方向の分離は、比重が大きく変わらない場合には主にサイズ比のみで決まり、大きいほうの粒子が外側を覆う構造を形成する。極端に比重が違う場合には重いほうの粒子が沈んで中心部のコアを形成する。動径方向の分離が完了した後、表層を覆う大きい粒子の層が比重が大きいときのみ、表層の粒子層が不安定化して軸方向にちぎれてバンド構造を形成することが分かった。粒子の大きさと比重のパラメータ空間を詳細に調べることで、軸方向の分離が起きる条件を明らかにすることに成功した。
昨年度、表面流の高速度カメラによる測定では、総分離現象でみられているようなゆっくりとした巨視的対流を検知することができなかったため、今年度は全く同じ物性で、色だけ異なるガラスビーズを高充填に円筒容器に封入して回転し、その様子を観察した。初期状態では、4つのドメインに分けて、それぞれ異なる色になるように粒子を充填した。すると、円筒容器の外側では粒子は拡散して混ざってしまうが、内部では初期状態の分離させた状態を保ったまま、バルクで流れていることが観察された。つまり、粒子のサイズや密度が全く同じ粒子を高充填に詰めた場合でも、非常にゆっくりとした巨視的対流を起こしうることが初めて観察された。同じ条件で実験をすると流れ場の再現性が非常によく、1時間ごとに断面を観察することで、疑似的に巨視的対流の時間八点を追うことに成功した。
粉粒体の分離現象について、そのメカニズムの理解を深める重要な知見が得られたことから、研究は当初の計画通りおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
部分充填系については、バンド形成のメカニズムを2段階に分けて考えて、混合状態から動径方向の分離、動径方向の分離から軸方向の分離へと転移する条件を、粒子の比重とサイズから明らかにしたが、今後は、このメカニズムについて、理論的な説明を与え、実験的に検証していく。動径方向の分離については、大きい粒子が枯渇効果に似た効果で外側にはじき出されると考えられるが、重力下では下方に沈んでいく効果もあり、そのバランスで動径方向の分離が決まると考えられる。軸方向の分離では、表層の粒子が比重が重いとき、表層の粒子と内部でコアを形成する粒子の界面で、どのようなずり応力が生じ、構造が不安定化するのか、内部構造の観察により知見を深める必要がある。平均粒径が円筒容器の内径に対して十分小さくなくなってくると、軸方向の分離が起きなくなることがわかっており、今後は、平均粒径と円筒容器の内径を変えた実験を行うことで、今回得られた分離条件を拡張していく。高充填系については、外側で拡散的に粒子が流れながら、内部である程度固まったバルクで流れる、という実験結果について、円筒容器の回転速度を変えたり、円筒容器の内川の摩擦を制御することで、その駆動の起源を今後明らかにしていく。
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