研究課題/領域番号 |
18K03464
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
許 宗ふん 九州工業大学, 大学院情報工学研究院, 教授 (50325578)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 電気対流 / 液晶 / ノイズ / 進行波 / 孤立波 |
研究実績の概要 |
本課題では対流系に現れる進行波(Traveling waves: TW)及び孤立波(Localized waves: LW)の制御を,液晶電気対流(Electroconvection: EC)とノイズを用いて研究調査する.前年度の研究結果を踏まえて,「In-plane switching (IPS)」タイプの1次元液晶セルを用いてTWの進行方向の調査を行った.以下はその主な結果である. ①ある強度以上のノイズ電圧を印加すると,セル内に液晶特有のディスクリネーションが発生し,Right-propagating TW(RTW)とLeft-propagating TW(LTW)が現れた.しかしながら,その進行方向は完全にランダムで制御できない.これは進行波のソース(source)及びシンク(sink)となるディスクリネーションをノイズでは制御できないからである. ②液晶電気対流渦の形の異方性から,磁界による進行方向の調査を試みた結果,RTWとLTWの制御に成功した.この磁界による制御の場合には,上述したディスクリネーションが発生しないまま,その進行方向の制御が可能となる. 以上の結果から液晶電気対流の静止波(Williams domain)のノイズ応答性と区別して,進行波のその応答性を明らかにした.さらに,進行波が局所化される場合,孤立波として運動していることが実験で観察されている.ノイズ及び磁界を用いて更なる調査が必要である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前述した「In-plane switching (IPS)」タイプの1次元液晶セルは,当該研究室で初めて液晶電気対流セルとして用いている.これまでの通常の2次元液晶セルや,サイドビューセル(Hele-Shaw cell)に比べて多くの利点があることが判明された.この1次元セルでは,通常の2次元液晶セルに必ず現れる対流ロールの欠陥(phase-jump)が存在しないので,理論的にも実験的にも非常に扱いやすい.本課題においても,進行波(Traveling waves: TW)及び孤立波(Localized waves: LW)の可視化や速度・波長等の定量的測定及び分析にそのメリットが大きい. また,進行波の進行方向の制御において,前述した磁界による制御は,今後の液晶電気対流のダイナミックを調査するにあたって非常に有効な手法となる.上述した研究成果は専門雑誌や学会に発表されていることから,本課題の目標に順調に進んでいると言える.
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度以降では,1次元液晶対流系を用いて進行波(TW)及び孤立波(LW)の調査を続ける.特にこれまで2次元液晶対流系における乱流への進化シナリオを踏まえて,1次元液晶対流系のそのシナリオに着目する.静止波から進行波,さらに乱流に発展するまでの詳細な転移現象を,ノイズを用いて調査する.以下,具体的な調査項目である. ①乱流への進化シナリオにノイズがどう関わるかを調査する.これまで個別の波(静止波,進行波,孤立波)に対するノイズ効果を,その遷移課程において調査する.異なる次元によるそのシナリオの調査はかなりユニークな実験研究となる. ②これまでの振幅ノイズから位相ノイズに変えた場合,個別の波(静止波,進行波,孤立波)と遷移課程におけるノイズ効果を調査する.位相ノイズによるこのような研究はこれまで皆無の状態であり,新たな成果が大いに期待できる.特に2次元で確認されている「確率共鳴現象及び逆確率共鳴現象」のような特異現象がどうように現れるか注目に値する. これらの調査においてこれまでの2次元セルでの豊富な研究結果との比較を通して,非平衡散逸系における基礎知見を深める方向へ進める必要がある.
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