量子コンピュータを用いて、スピン状態が異なる電子状態間のエネルギー差を特徴づけるパラメータである交換相互作用パラメータを、個々のスピン状態のエネルギーを計算することなく直接計算できる新規量子アルゴリズムの開発を行った。2018年度に開発したスピン演算子のもとでの波動関数の時間発展量子シミュレーション手法と、2つの波動関数の重なりを量子コンピュータ上で効率的に評価することができる手法であるスワップテスト、ベイズ推定に基づく機械学習を組み合わせることでスピン状態間のエネルギー差を直接計算できる新規量子アルゴリズム「Bayesian exchange coupling parameter calculator with broken-symmetry wave functions (BxB)」を提案した。BxB量子アルゴリズムは従来法である量子位相推定と同様に計算時間の指数加速が保証されているだけでなく、量子位相推定よりも量子コンピュータへの実装コストが低いこと、ノイズ耐性に優れることを理論的に示した。また、水素分子の共有結合解離、炭素原子や酸素分子など基底三重項状態をもつ原子・分子、窒素分子の三重結合解離などについて数値シミュレーションを実行し、交換相互作用パラメータJを誤差1 kcal/mol以下という非常に高精度に計算できることを示した。これらの成果は学術雑誌Chemical Scienceにて発表した。また、BxB量子アルゴリズムを改良して必要な量子ビット数削減に成功するとともに、BxBアルゴリズムを垂直イオン化エネルギー計算にも応用した。この成果は学術誌The Journal of Physical Chemistry Lettersにて発表した。このほか、様々な開殻分子の量子化学計算を実行し、量子コンピュータを用いた計算の参照値となるデータを得た。
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