研究課題
レーザー冷却過程では、平衡系とは異なり非定常性が本質的に現れ、分布関数や統計量が時々刻々と変化する。そのような非定常な過程では、従来の定常性を仮定した確率論によるアプロ ーチができないため、その理論的取り扱いが困難になっている。本研究の目的は、レーザー冷却過程の基礎理論(エルゴード理論)の枠組みを構築することである。本研究プロジェクトでは、Bar-Ilan大学のバルカイ氏とケムニッツ工科大学のラドン氏と共同でレーザー冷却過程の運動量の1粒子モデルを基礎としたセミマルコフ過程における分布関数の時間発展や長時間平均量の揺らぎの理論を一般的に構築することができた。これらの結果は、決定論的な力学系における無限測度エルゴード理論と密接な関係があり、無限測度エルゴード理論でよく知られている長時間平均の分布極限定理の拡張となる定理も示している。これらの成果はPhys. Rev. E に出版された。次に、レーザー冷却過程の確率モデルにおけるエルゴード理論を構築した。このモデルでは、運動量は確率的に変動し、変動するまでの時間分布が運動量に依存する。そして、この運動量依存性には、一つのパラメータがあり、あるパラメータ領域で定常分布が無限測度になることがわかっている。本研究では、運動量の分布関数の時間発展方程式(マスター方程式)を解くことにより、規格化できない分布(無限測度)がマスター方程式の定常分布に現れることがわかった。そして、力学的エネルギーの時間平均の揺らぎを理論的に計算し、その分布が Mittag-Leffler 分布になることもわかった。さらに、運動量の発展ダイナミクスを記述するパラメータを変化させると、力学的エネルギーの時間平均の揺らぎが Mittag-Leffler 分布から外れることを発見した。これらの成果は、Phys. Rev. Lett. に出版された。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (2件) 備考 (1件)
The Journal of Chemical Physics
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