本研究課題の目的は,「量子測定」と「量子制御」をキーワードに,それらが意外ながら本質的な役割を果たすテーマに取り組んで,「量子情報技術」や「統計力学の基礎」に貢献することにあった.「量子計測」,「測定による量子制御」,「統計力学の基礎」を柱に研究を推進し,最終年度である今年度は以下の成果を得た. ■量子系の熱力学に関わる話題として,量子測定とフィードバック制御によって量子系に充填・抽出可能なエネルギーの限界を追究した.一般の量子測定過程がフィードバック制御を含む量子操作過程と区別できないことを指摘するとともに,純粋に測定と言える量子過程ではユニタリー制御によるエネルギー抽出限界(エルゴトロピー限界)やエネルギー充填限界を超えることができないことを一般的に証明した.このことより,ユニタリー制御を超えるエネルギー充填・抽出を実現するためにはフィードバック制御を加える必要があることを明らかにした.この研究成果を論文として発表した. ■昨年度までの研究で,様々な量子制御手法の基盤を与える極限定理を統一的に扱うことができる枠組を構築していた.それを発展させ,量子制御に広く利用されている「Trotterの積公式」を議論した.特に,高次の積公式を系統的に構成する方法を提供するとともに,無限次元系に対する積公式の誤差評価を与えた.その結果,量子化学計算の評価に広く使われている誤差評価が正しくないことが明らかになった.この研究成果は,当該分野で最も権威ある国際会議の一つとして知られているQuantum Information Processing (QIP)に採択され,そこで公表した. 研究期間全体を通じても,11編の学術論文の発表,48件の学会・研究会発表に結実するなど,「量子計測」,「量子制御」,「統計力学の基礎」に関わる話題で研究成果を上げることができた.
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