研究課題/領域番号 |
18K03471
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研究機関 | 大阪電気通信大学 |
研究代表者 |
柳田 達雄 大阪電気通信大学, 工学部, 教授 (80242262)
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研究分担者 |
中尾 裕也 東京工業大学, 工学院, 准教授 (40344048)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 多スケールダイナミクス / 非線形力学 / 高分子モデル / 緩和過程 / エネルギー不均一運動 / ビーズスプリングモデル / ハミルトン力学 |
研究実績の概要 |
自然界には外乱や環境変化に抗して安定に機能するシステムが多く存在する.例えば,中枢パターン生成神経網では,ニューロン同士の結合構造がリズミックな動物の運動を創生している.また,共有結合・分子結合,分岐やループなどの結合構造による局所運動が生体高分子の機能に関与している.これら機能の創出には,ヘテロな結合構造とそれにより生成される多スケールダイナミクスが重要な役割を担っていると考えられている. 本年度は,生体高分子を模した具体的な力学モデル(質点がバネでつながったモデルでありビーズスプリングモデルと呼ばれる)の力学的な振る舞いを解析した.特に,異なる運動の時間スケールをシステムが内容している場合における熱平衡状態への緩和過程を解析した.この緩和過程では,運動エネルギーの不均一が見出され,その非一様運動の創生機構を明らかにした.このような,ヘテロな結合構造が生み出す局所的な運動や揺らぎが機能と密接に関係している事がアクトミオシン系などにおいて示唆されており,モデル系で観測された不均一運動も生体分子の機能と密接に関連していると考えられる. また,所与された多スケールダイナミクスを創出するヘテロな結合構造をもつ力学モデルの構造設計するためのマルコフ連鎖モンテカルロ法を効率的アルゴリズムの開発し.所与された不均一運動を創出するビーズスプリングモデルの結合係数を設計に適用を試みつつある. これらの高分子モデルの数値および理論解析を通し,1)高分子モデル(ビーズロッドモデル)において,熱平衡状態における温度に伴う不均一運動の転移現象,2)運動モードの励起による動的剛性が創生されるという新現象を見出し学会発表した.これらの現象は,多スケールダイナミクスやヘテロなエネルギー励起が生み出す,不均一運動と考えられ,生体分子の機能との関連が強いと考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の第一ステップである所与された多スケールダイナミクスを創出するヘテロな結合構造をもつ力学モデルの構造設計するための効率的アルゴリズムの開発がほぼ完成し,具体的な高分子モデルであるビーズスプリングモデルの結合係数の設計に応用に成功している.これにより所与された運動エネルギー分布をもつ1次元分子(鎖状)の質量分布を設計することができた.より具体的には,末端粒子の運動強度を設計し,他の分子との衝突回数(化学反応に影響すると考えられる)を制御することができる. また,,高分子モデルに緩和過程に観測される非均一運動の創出機構が以下のように解明された.非平衡状態における運動の不均一性はバネ定数が無限大の剛体棒で結合されたバネロッドモデルにおける平衡状態の運動を模倣することが明らかになった.この理論的解析結果は数値実験と良く一致しており,学会発表および現在論文投稿準備中である.このように,本研究は概ね順調に進展していると考えられる. さらに,高分子モデルにおいて,1)高分子モデル(ビーズロッドモデル)において,熱平衡状態における温度に伴う不均一運動の転移現象,および2)運動モードの励起による動的剛性が創生されるという新現象をも見出し学会発表した.これらの現象を解析することにより,ヘテロな分子構造が生成する運動の不均一性の起源のさらなる進展が見込まれる.
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今後の研究の推進方策 |
1)力学モデルの構造設計するためのマルコフ連鎖モンテカルロ法のアルゴリズムを高分子モデルであるネットワーク構造をもつビーズスプリングモデルの結合係数の設計に応用にし,より複雑な運動を創生させ,構造と運動との関係を明らかにする. 2)高分子モデル(ビーズロッドモデル)において,熱平衡状態における温度に伴う不均一運動の転移現象を見出した.この理論的解析および数値実験との対比をおこなう.このような温度に伴う運動様式の変化がビーズスプリングモデルの熱平衡への緩和過程に現れるかを解析する.この解析では,長時間の数値計算が必要となるため,効率的なアルゴリズムを適宜選択するなどの対処が必要と考えられる. 3)運動モードの励起による動的剛性が創生される現象を見出した.これは,励起する運動モードにともない異なる動的剛性が生成され,それに伴い異なる運動モードが発現する可能性がある.励起モードによる運動モードのスイッチは生体分子の機能との関係が考えられる.今後は,数値実験によりこの仮説を確認するとともに,理論解析(摂動論など)により動的剛性の発現機構を明らかにする予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は主に理論解析を中心として研究推進した.そのため,数値実験のために必要と見込まれていた計算機の購入を見送ったため次年度使用額が生じた.次年度以降は大規模な数値実験を行うため,翌年度分として請求した助成金と合わせて,高い演算能力を備えたマルチコアプロセッサの計算機を購入するために使用する計画である.
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