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2019 年度 実施状況報告書

量子系のエンタングルメントと幾何学に関する情報理論的研究

研究課題

研究課題/領域番号 18K03474
研究機関仙台高等専門学校

研究代表者

松枝 宏明  仙台高等専門学校, 総合工学科, 教授 (20396518)

研究期間 (年度) 2018-04-01 – 2021-03-31
キーワード特異値分解 / エンタングルメント / 情報幾何 / 量子古典変換 / テンソルネットワーク
研究実績の概要

専門分野を超えた協力によって,トポロジカル電荷分布の画像処理的研究に関する論文が専門誌に採録された.これは研究計画調書の①特異値分解の機能性とホログラフィー原理の研究,に対応する.特異値分解は情報理論・情報処理分野の主成分解析のための1手法であり,様々な場面に活用されているが,複雑な物理の問題に適用した場合にも,相転移の臨界指数などの物理系を特徴づける重要なパラメータの自動抽出が可能であることが分かっている.ただし,2次元強磁性イジング模型に対する数値計算・2次元3状態ポッツ模型に対する数値計算・2次元フラクタル模型の厳密計算などの数例しかなく,より広範なモデルでの系統的解析と評価が望まれる.例えば通常の統計力学で秩序変数が定義しにくいトポロジカル相の分類可能性を調べることには意味がある.本研究では,非自明なトポロジカル的性質を持つ模型である2次元CP(N-1)模型に着目し,トポロジカル電荷密度によって定義されるフーリエ・エントロピー,スナップショット・エントロピー,およびトポロジカル電荷密度パターンの特異値分解を調べた.トポロジカル感受率など通常の場の理論的に考えられる解析方法ではモデルの特徴をとらえるのが難しいとされているが,本研究では例えば特異値データを見ると,トポロジカル励起の空間スケールに関して明確な転移温度があることを示すことができた.
また愛媛大学・理化学研究所等,多方面で様々な専門性を持つ参加者に対して集中講義を実施することで,異分野融合研究における課題の議論は着実に進んだ.これらは個別課題の論文執筆にはまだつながっていないが,最終年度に研究をまとめる大きな補助材料になっていると思われる.

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

研究の大きな方向性は,①特異値分解の機能性とホログラフィー原理の研究,②情報幾何学による量子古典変換理論の構築,③MERAネットワークのウェーブレット解析,の3テーマである.①に関しては堅実に研究が進んでおり,研究実績の概要で述べたように,専門分野を超えた協力による成果も出始めている.より広範な物理模型に対して特異値分解を施し,対象とする物理系の本質が普遍的に抽出可能か,その背景となる情報空間の幾何学構造がいかなるものかという解析を進めていく.具体的にはトポロジカル秩序を持つ古典スピン系の解析,スピン系のクラスターモンテカルロ法データからの動的臨界指数の抽出,反強磁性スピン構造の特異値解析,を想定して予備的計算まで完了したところである.②に関してはBTZブラックホールと有限温度における共形場理論の対応について情報幾何学の観点から調べている.特に2017年に執筆した先行論文に基づいて,相対論と量子論の対応がバルク・境界対応になることを純粋に情報理論の観点から導出可能か,またそこから有名な立・高柳公式が自然に導出できるか調べており,ある程度の傍証は得られているため,論文を投稿中である.③に関しては,テンソルネットワーク変分波動関数の最適化が,ウェーブレットや量子可積分系などの数理物理的にどのように位置づけられるかの研究であり,有限スピン系での予備計算までは実行したところである.
この3年間の研究計画の2年間は,所属学校の副校長・専攻長・コース主任・教育プロジェクトリーダー等を併任しており,また幾つもの大学・研究所の非常勤講師・集中講義を担当し,色々な研究アイデアを形にするための予備計算は多方面に進んだものの,時間の制約から論文業績という形につなげることが非常に難しかった.最終年度にこれらが成果としてまとめられるように研究を推進する予定である.

今後の研究の推進方策

「現在までの進捗状況」で述べた,②③のトピックに関する研究の完成を目指す.②に関しては量子多体系のエンタングルメントと古典的重力理論の幾何学的性質に深い関わりがあることを情報幾何学の方法で解析する.空間1次元の場の理論に双対なBTZブラックホール時空の解析導出は既に実施済みであり,論文も公表されているが,これは現象論的立ち位置の研究である.この現象論と対応するようなミクロな場の量子論の性質を詳細に解析することによって,量子系のエンタングルメント情報がどのようなフォーマットで古典的な幾何学に変換されるのかを明らかにする.可解量子スピン系や自由フェルミオン系等の知識を最大限に活用してこの課題に取り組む.この研究において難しい部分の一つは,時間自由度がどのように量子古典変換されるのかということである.通常の場の量子論では時間発展や非平衡状態を取り扱うことが非常に難しく,また情報幾何特有の難問題もあり,先行研究ではひとまず現象論的立場で研究を進めていた.これを解決するためには,全く異なる観点・相補的な観点から,量子計算に実装する量子アルゴリズムに着目するのがよいのではないかと考えている.量子アルゴリズムでは始状態に量子ゲートや測定演算子を繰り返し演算子して望みの状態を高速に構成する.このゲート演算の繰り返しが計算時間に相当するので,量子アルゴリズムの問題は量子系の時間発展を主眼としており,上記の問題解決に役割を果たすと考えている.また量子アルゴリズムの考え方は,③の課題におけるテンソルネットワークの最適化とも深い関連があり,②③の研究の関係性を明らかにすることも最終的な研究課題の完成には必要なことと考えている.

次年度使用額が生じた理由

令和元年度(平成31年度)は公務負担が極めて大きく,予定していた出張や研究者の招待,研究に必要な物品購入管理などがほとんど実施できなかった.具体的には,所属学校の副校長としての管理運営業務・ウイルスの危機対応業務,専攻長としての組織改革業務,コース主任として令和2年度4月から新規立ち上げコースの取りまとめ,JSTから予算を頂いている早期技術者養成のための小中学生教育プロジェクト(5年間)の3年目中間評価への対応なと,時期的に多くの重要業務が重なった.今後の研究計画では,大規模数値計算に基づく研究と解析的研究の双方があり,効果的な成果を上げるためには最新の計算資源をぜひとも準備したい.この4月に仙台高専から東北大学に移籍し,いまだ研究室環境が整っていないので,早期に計算資源は準備して研究を実行したい.また,新型コロナウイルス感染症の影響拡大の影響が依然として大きく,学会発表や研究協力のための出張ができない状況で,その観点の研究計画は変更せざるを得ない.ウェブ会議の環境を整えるために予算を使用し,逆に遠隔地の研究者ともスムーズな議論や情報交換ができるようにすることで,総合的には研究が進展するような状況を作り出したい.

  • 研究成果

    (3件)

すべて 2020 2019

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (2件)

  • [雑誌論文] Image-processing the topological charge density in the CP(N-1) model2020

    • 著者名/発表者名
      Yuya Abe, Kenji Fukushima, Yoshimasa Hidaka, Hirokai Matsueda, Koichi Murase, Shoichi Sasaki
    • 雑誌名

      Progress of Theoretical and Experimental Physics

      巻: 013D02 ページ: 1-19

    • DOI

      10.1093/ptep/ptz134

    • 査読あり
  • [学会発表] 特異値分解とウェーブレット変換の比較2020

    • 著者名/発表者名
      松枝宏明,森知生,佐藤健太郎
    • 学会等名
      日本物理学会第75回年次大会
  • [学会発表] トポロジカル秩序を持つ系の特異値分解による解析2019

    • 著者名/発表者名
      松枝宏明
    • 学会等名
      日本物理学会2019年秋季大会

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公開日: 2021-01-27  

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