研究課題/領域番号 |
18K03475
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
大塚 雄一 国立研究開発法人理化学研究所, 計算科学研究センター, 研究員 (30390652)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 物性理論 / グラフェン / 金属絶縁体転移 / 格子自由度 / 量子モンテカルロ法 / トポロジカル絶縁体 |
研究実績の概要 |
格子自由度などの空間的に一様ではない構造を持つ系に対しては、量子モンテカルロ法の計算に問題が生じることが、特に低温・強相関領域では予想される。これは、実空間で電子を隣に移動させる、あるいは隣り合う電子の間でスピンを反転させるといった操作が、虚時間が導入されたd+1次元系では、その虚時間方向のすべてに渡る同じサイトの補助場を更新することに相当し、このような大域的な更新を局所的な反転試行で実現させることは難しいためである。そこで、このような系に対するシミュレーション手法を検討・向上させるため、ベンチマークとしてbreathingモードと呼ばれる格子変動を持つカゴメ格子における計算を行った。この模型は最近精力的に研究が進んでいる高次トポロジカル絶縁体の相関効果を調べるうえでも恰好の模型となっており、その計算結果は単なるベンチマークを超えて意味を持つことも期待される。実際、同模型は筑波大のグループにより厳密対角化法を用いて調べられており、研究成果の論文は1年で30回以上引用されていることからも大きな注目を集めていることが分かる。本年度は、まずこの先行研究の模型に対して、量子モンテカルロ法が負符号問題を生じることなく計算可能であることを実際のシミュレーションで示した。さらに、当初予想されていた通り、低温あるいはbreathingモードの効果が大きい領域ではシミュレーションでエルゴード性に起因する困難が生じることが確認されら。そこで、補助場に対して一度に反転思考を行うグローバルアップデートのアルゴリズムを実装し、その有効性を確認した。期待通り、この工夫により計算精度は劇的に向上し、またエルゴード性が問題となるときに最も問題を難しくする統計誤差の過小評価の困難さも解消されることが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
空間変調するパラメータを持つ系に対する量子モンテカルロ計算に関し、グローバルアップデートの導入が非常に有効であることが確認された。このアルゴリズムは実質的に計算時間を大幅に現象させることになるので、実際に格子自由度を考えた系でiterativeに秩序変数を決める場合に非常に役に立つことが期待される。
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今後の研究の推進方策 |
ベンチマーク的な意味から始めたbreathingカゴメ格子の計算であるが、有限温度かつ外部磁場化での計算も可能であるなど、厳密対角化による先行研究では不可能であったパラメータ領域の探索ができることが判明した。また、計算時間も非常に押さえられ、負符号問題がないため、3次元系の計算も視野に入った。高次元トポロジカル絶縁体における相関効果は2次元までしか調べられておらず、パイロクロア格子に拡張した研究を行うことは意義を持つことが期待される。そこでこのような方向性の展開も念頭に置きつつ、グラフェンにおける格子自由度の計算を進めて行く。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ感染症のため、国内国外出張が不可能であったため。
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