研究課題/領域番号 |
18K03475
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
大塚 雄一 国立研究開発法人理化学研究所, 計算科学研究センター, 研究員 (30390652)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 物性理論 / 強相関電子系 / 量子モンテカルロ法 / グラフェン / 電子格子相互作用 / Valence Bond Solid |
研究実績の概要 |
グラフェンにギャップを導入することは工学的に大きな波及効果を持つと期待されている。グラフェンの基礎模型となる2次元ディラック電子系では、理論的には電子間相互作用によってモット絶縁体への転移が起こる。そのため、グラフェンを引き伸ばすことで実効的に相互作用を制御し、絶縁体化を目指す実験的な試みが精力的に行われている。最近、この実験に対応した第一原理量子モンテカルロ計算が行われ、モット絶縁相の隣に、構造相転移を伴うパイエルス絶縁相が存在すると指摘された。本研究は、これに刺激され、モット転移の近傍で格子自由度という新たな要素を導入することで、2次元ディラック電子系を絶縁体化させる新たなメカニズムを理解することを目的として数値研究を行っている。本年度は、Su-Schrieffer-Heeger(SSH)型と呼ばれる、格子間距離(ボンド長)に比例するような電子格子相互作用を含む系を断熱近似に基づき解析を行った。FrankとLiebによって示された厳密な結果によると、この模型ではReflection positivityという対称性が保たれることが要請され、そのためにはユニットセルに含まれる原子数は最大でも6個に限定される。この条件と、系の全体の体積が保たれるという拘束条件の下では、格子変位に関する秩序変数は2種類に分解でき、それぞれVBS(valencebondsolid)相とRVB(resonating valence bond) 状態に対応することが分かる。本年度は、この格子自由度に関して断熱近似で扱い、電子自由度に関しては量子モンテカルロ法を用い、温度および量子揺らぎについてフルに取り込んだ計算を行った。これまでの結果ではVBS相のみが有限温度相図で安定化されていることが分かっており、相転移の詳細については現在解析を行っているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画の骨子であるSSH型相互作用を持つ系に関して計算を進め、格子自由後起源の絶縁体相(パイエルス相)を数値的に確認することができたため。
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今後の研究の推進方策 |
電子格子相互作用に関するパラメータ(弾性定数;K)をいくつか選び、ハバード型電子間相互作用(U/t)と温度(T/t)を変数とした有限温度相図を決定する。現在までの結果では、1/Kが比較的大きい格子から計算を進めており、U/tが4程度の中間的な領域で臨界温度(Tc)が最大となるような形状の相図が得られている。今後は1/Kが小さい(硬い)格子について、RVB状態実現の可能性も含めて検討する。このためには、より低温領域で大きな格子サイズの系に関して計算を行う必要がある。その対策として、計算コードの最適化をさらに進めるとともに、秩序変数を効率よく収束させるためのアルゴリズムの改善を行っている。また、研究の後半で計画していた格子変位の揺らぎも取り込んだシミュレーションに関しては最近手法的な進展が報告(arXiv:2112.14744)されており、スピン有効模型に落とさず、電子模型のままで計算を行う方法を検討している。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の流行により、予定していた海外出張が不可能となったため。また、同様の理由により所属機関のサーバルームの立ち入りに制限がかかり、ワークステーションの導入が遅れることになったため。
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