研究課題/領域番号 |
18K03475
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
大塚 雄一 国立研究開発法人理化学研究所, 計算科学研究センター, 技師 (30390652)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 物性理論 / 強相関電子系 / 量子モンテカルロ法 / グラフェン / 電子格子相互作用 / Valence Bond Solid |
研究実績の概要 |
グラフェンにギャップを導入することは工学的に大きな波及効果を持つと期待されている。グラフェンの基礎模型となる2次元ディラック電子系では、理論的には電子間相互作用によってモット絶縁体への転移が起こる。そのため、グラフェンを引き伸ばすことで実効的に相互作用を制御し、絶縁体化を目指す実験的な試みが精力的に行われている。最近、この実験に対応した第一原理量子モンテカルロ計算が行われ、モット絶縁相の隣に、構造相転移を伴うパイエルス絶縁相が存在すると指摘された。本研究ではこの第一原理計算とは相補的なアプローチとして、モデル計算の手法である補助場量子モンテカルロ法を用い、現実物質よりもかなり簡単化された格子模型ではあるが、電子間相互作用に関しては温度および量子ゆらぎを近似を入れることなく取り込んだ計算を行った。電子格子相互作用に関するパラメータをいくつか選び、ハバード型電子間相互作用と温度を変数とした有限温度相図を作成し、先行研究と同様なKekule型の格子歪みを持つパイエルスの絶縁相が現れることを確認した。特に、この絶縁相は、電子格子相互作用がない場合の半金属とモット絶縁相間の臨界点近傍で低温に張り出しており、もしグラフェンに対する伸長の効果がパラメータ的にこの領域をよぎる場合、半金属から構造相転移を伴う絶縁相に転移することが期待される。これは先行研究と矛盾しない結果と言える。さらに相図全体の形は、主として物性基礎論的な興味から調べられた人工的な模型の結果[Physical Review Letters, 119, 197203 (2017)]と非常によく似ており、本研究の結果はグラフェンに留まらず、より一般的なDirac電子系の性質を反映しているものと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画の骨子であるSSH型相互作用を持つ系に関して計算を進め、主な目的である有限温度相図を求めることができたため。
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今後の研究の推進方策 |
モデル計算の枠組みでは、第一原理計算と異なり、モデルのパラメータを比較的自由に設定することが可能である。この点を活かし、先行研究では得られていなかったRVB的な格子歪みによる絶縁相の可能性を探りたい。このためには、電子格子相互作用がより小さく、温度も低い領域を計算する必要があると考えている。現在までのところ、一昨年に完成させたグローバルアップデートのアルゴリズムの採用により、数値的な問題は生じていないので、計算を行うこと自体に予想される困難はない。また、研究の後半で計画していた格子変位の揺らぎも取り込んだシミュレーションに関しては最近手法的な進展が報告(arXiv:2112.14744)されており、スピン有効模型に落とさず、電子模型のままで計算を行う方法も検討したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の流行により、予定していた海外出張が不可能となったため。また、同様の理由により所属機関のサーバルームの立ち入りに制限がかかり、ワークステーションの導入が遅れることになったため。
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