本研究課題では典型的なペロフスカイト型強誘電体であるチタン酸バリウム(BT)とチタン酸鉛のナノ結晶に注目し、強誘電ナノ秩序化現象の発現機構とナノ秩序に由来したフラクタル性の解明が試みられた。最終年度は強誘電性の発現機構(相転移ダイナミクス)について新たな視点での解明を目的にハイパーラマン散乱(HRS)装置を構築し、立方晶構造で全フォノンモードがラマン不活性となり従来の高分解能広帯域光散乱分光(BBLS)実験では観測できない高温領域の不安定化モードの観測が試みられた。粒径17nmのBT試料において低エネルギー領域のHRSスペクトルの温度依存性が測定され、ナノ秩序形成が発現する秩序化温度の近傍でスペクトル異常を示すセントラルピークの観測に初めて成功した。これまでに広帯域分光で得たラマン活性モードに加えてさらにハイパーラマン活性モードを含めて相転移ダイナミクスの解明が行われた。またフラクタル性の空間的大きさを調べるためCROSS、AISTと共同研究で中性子小角散乱が行われ、粒径19 nmのBT試料を用いて室温で散乱曲線が測定された。これまで広帯域分光実験で測定された自己相似スペクトルはナノ結晶中のフラクタル構造に由来すると考えられてきたが散乱曲線は結晶サイズより大きな領域でフラクタル構造の存在を示唆し、粒子間に働く長距離相互作用により粒子間に高次の階層構造が形成しフラクタル構造が発現したものと考えられる。さらに強誘電性ナノ結晶に特徴的な動的構造を示すため他のペロフスカイト酸化物、窒化物とその関連物質を用いてBBLSを用いた対照実験が行われた。臨界現象の視点から本研究でこれまでに得たSHG、HRSを含むBBLSスペクトルの温度依存性、サイズ依存性について理論的考察を行い巨視的なスケールで適応される統計力学との違いが現れるサイズ領域を示し適応限界について明らかにすることに成功した。
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