研究課題/領域番号 |
18K03477
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
手塚 泰久 弘前大学, 理工学研究科, 准教授 (20236970)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 誘電異常 / 電子構造 / X線ラマン散乱 / 共鳴X線非弾性散乱 / X線発光 / 蛍光X線ホログラフィー / 高圧実験 / Aサイト秩序ペロブスカイト |
研究実績の概要 |
Aサイト秩序ペロブスカイトであるCaCu3Ti4O12(CCTO)は、室温を含む広い温度範囲で極めて大きな誘電率を示す一方で、約100K付近で構造変化を伴わずに誘電率が急減するという誘電異常を示す。本年度の研究では、高エ研PFにおいて軟X線及び硬X線ラマン散乱と蛍光X線ホログラフィー実験を行い、更にSpring-8において高分解能軟X線ラマン散乱及び高圧下での硬X線ラマン散乱を行った。 硬X線ラマン散乱では非占有Cu 3d及びTi 3d、軟X線ラマン散乱では占有O 2p状態の電子構造の研究を行った。共に温度依存性の測定を行い、Cu 3d及びTi 3d状態は低温で増加し、O 2p状態は減少する結果が得られた。特にCu 3dは100K近傍で急増しており、誘電異常に対する電子構造の影響を示唆している。高圧下での硬X線ラマン散乱では、Cu 3d状態の圧力依存性を測定した。以前に測定したX線回折では顕著な圧力依存性を示さなかった一方で、Cu 3d状態は高圧で増加しており、温度依存性と同様の結果を示している。蛍光X線ホログラフィー実験では、室温と誘電異常温度以下の80Kで測定を行ったが、低温ではTiサイトがX線回折から求められる長距離秩序位置に存在する結果が得られた一方で、室温ではそれ以外に複数位置に存在する結果が得られている。室温でTiが複数サイトを移動していて低温で固定されているとすれば、室温での巨大誘電率及び低温での誘電率急減を説明可能である。この場合、Cu 3d状態の状態変化は誘電率変化に対する協調現象もしくは前兆現象であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の主目的はCCTOにおける電子構造の異方性及びその温度依存性を測定することである。硬X線ラマン散乱の分光器に試料回転機構を取り付け、電子構造の詳細な方位角依存性を測定すること、さらにはその詳細な温度依存性をできるだけ低温まで行うことが目標である。現有の分光装置ではHe循環式の冷凍機が使用可能であるが、真空内であることもあって単純に回転機構を取り付けることは難しい。一方、冷凍機構から含めて作成するためには予算的な制限がある。非常に難しい機構設計及び機種選定が必要であり、現在その作業を進めている段階である。早急に作成して、今秋以降での実験を実現したいと考えている。これまでにも、予備実験として限定した方位角での測定は既に進めており、装置作成前にも可能な範囲で同様の実験は進めていきたいと考えている。また、軟X線ラマン散乱や蛍光X線ホログラフィー実験も進めていく予定であり、多方面からの実験によってCCTOの誘電異常の本質を明らかにしていきたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
硬X線ラマン散乱測定装置に真空外から駆動可能な回転機構を取り付ける。既存の冷凍機に取り付けられれば約30K程度まで冷却可能であるが、回転機構での熱伝導問題や取り付けスペースの制限問題など、解決すべき点が多々ある。一方、冷却機構から作成するとなると 予算的な制限が大きく、液体窒素温度(77K)程度が限度であると考えられる。CCTOの誘電異常温度(約100K)付近の測定には充分であるが、さらに低温(約25K)で起こる反強磁性転移につながる現象を測定することはできなくなる(転移以前の変化の一部は観測済み)。現在、実施すべき実験を検討している段階であり、早急に決定して適切な回転機構を導入し、秋以降の実験で実施することを目指している。 電子構造の方位角依存実験以外にも、Spring-8での高分解能軟X線ラマン散乱実験を申請する予定であり、採択された場合には、O 2p電子構造の高分解能実験及び反強磁性転移以下の温度で、マグノン等の素励起の測定を目指す。また、蛍光X線ホログラフィー実験でも反強磁性転移温度前後での測定を計画しており、X線ラマン散乱実験の結果との相関を研究していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度に試料回転機構を作成する予定であったが、設計及び機種選定が間に合わなかったため、2年目に持ち越すことになった。2年目に作成を行って、秋以降に実験を実施する予定である。
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