Aサイト秩序ペロブスカイトであるCaCu3Ti4O12(CCTO)は、室温を含む広い温度範囲で極めて大きな誘電率を示す一方で、約100K付近で構造変化を伴わずに誘電率が急減するという誘電異常を示す。当該年度は、コロナ禍による研究遅れのため期間を1年延長して実験に当たった。過去3年に引き続き、高エ研PFにおいて軟X線及び硬X線ラマン散乱(XRS)と蛍光X線ホログラフィー(XFH)実験を行った。硬X線ラマン散乱では、非占有Cu 3d及びTi 3d状態、軟X線ラマン散乱では占有O 2p状態の電子構造の研究を行った。共に温度依存性の測定を行い、Cu 3d及びTi 3d状態は低温で増加し、O 2p状態は減少する結果が得られた。特にCu 3d状態は、100K近傍で急増しており、誘電異常に対する電子構造の影響を示唆している。当該年度は、前年度に立ち上げを行った外部駆動の回転機構を用いて、方位角依存XRSの実験を行った。装置トラブルなどもあり低温での実験には至らなかったが、室温での方位角依存性の測定は完了した。Ti及びCuの3d状態がOとの結合方向に偏在していることが明らかになった。軟X線ラマン散乱では、偏光依存のTi 2p及びCu 2p共鳴XRS実験を行い、それぞれの内殻における電荷移動励起やdd励起を観測している。これらは、これまで報告されていない新たな素励起であると考えられ、引き続き温度依存性の実験を行って誘電異常との関連性を明らかにしたいと考えている。XFH実験では、前年度までに室温及び120Kと誘電異常温度以下の80Kで測定を行行い、Tiサイトの秩序化が、100K付近で起こっていることを確認している。当該年度は、より低温の10K付近の測定も行い、約25Kで起こる反強磁性転移での局所結晶構造の変化をとらえることができた。
|