多粒子系の高精度波動関数を非直交なスレーター行列式の重ね合わせで記述する共鳴Hartree-Fock法は、これまで強相関電子系や電子格子系の基底状態を視覚的に表現することに成功してきた。近年、強相関電子系や電子格子系に強電場を与え、ピコ秒もしくはサブピコ秒でおこる誘電率や電気伝導率の変化が注目されている。こうした超高速な物理量の時間変化は工学的な応用も期待されているため、理論的な解析が待たれている。 本研究では、共鳴Hartree-Fock法を時間発展に応用する理論の開発と適用が目的である。最初の2年間では、理論開発を進めながらテトラチアフルバレンークロアニル(TTF-CA)の中性相の量子揺らぎを研究した。TTF-CAはイオン性相で強誘電体となるが、中性相においても局所的にイオン性相が量子揺らぎとして現れていることが明らかになり、強電場を掛けることで、こうしたイオン性ドメインが成長し中性相における誘電率の変化を誘起する可能性について指摘した。 時間発展理論は、スレーター行列式、重ね合わせの係数及び格子のコヒーレント状態をMcLachlanの定理に基づいて変分させていく。定式化は終了し、4次のRunge-Kutta法を用いたプログラムの開発に着手し、最終年度にはコードも完成した。しかし、スレーター行列式の時間発展をサウレス変換によって表現する部分がRunge-Kuttaの手法と相性が悪く、精度の高い計算ができない状態が続いた。現在、この問題の解決策を見つけコーディングをしているところだが、具体的な物質への適用まで研究期間内に遂行することができなかった。研究期間終了後も、必ずこの手法を用いたコーディングを完成し、超高速時間応答の理論的解析を行えるようにする決意である。また、研究機関内はコロナによる様々な規制から、成果報告や打ち合わせに制限があった。
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