引き続きマイクロ波で制御される量子ドット中の電子スピンダイナミクスをFloquet-量子マスター方程式の手法により解析した。量子ドットのポテンシャルを変調する場合とトンネル障壁を変調する場合の比較を行った。新しい知見として、マイクロ波によりスピン・軌道相互作用の大きさを変調する効果が非常に重要であることを明らかにした。 一方非マルコフなダイナミクスの課題に関し二状態系の断熱/非断熱ポンプにおいて、先行研究では非マルコフな効果を加えることにより(1)通常のポンプと逆方向の流れが生じる(2)非断熱条件ではポンプ流が大幅に増大する、の二つの結果が得られていた。我々は流れの定義を吟味し微視的な完全計数統計の手法を適用することにより、先行研究の電流の定義に誤りがあることを見出した。その結果(1)の負の流れの結果は誤りである。一方(2)のポンプ流の増大は異なる手法により正しいことを確認したがその適用範囲に大きな制限があることが明らかになった。これはモデルに固有な問題であるため、現在より物理的に健全な非マルコフ過程のモデルを用いた解析を進めている。 量子系の制御性の限界の課題に関しては、特殊な量子状態であるDicke状態を使った熱の入出力に関する研究を進めた。光子の放出に関してはDicke 超放射という現象が良く知られているが、今回うまく環境系を制御することによりその逆過程である超吸収現象が可能であることを理論的に明らかにした。これらの過程を用いると、量子熱機関のパワーの増大が可能であることを定量的に示した。さらに、量子系内の相互作用を制御することにより実効的に環境系の制御なしに、超放射/超吸収を実現することを理論的に提案した。 最後に非平衡定常状態の解析では、量子ホール端状態間の相互作用による熱化過程を朝永Luttinger形式で解析を行い、それを用いた熱機関を提案し、性能評価を行った。
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