研究課題/領域番号 |
18K03480
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
久保 敦 筑波大学, 数理物質系, 講師 (10500283)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 表面プラズモン / 超高速現象 / ナノ構造 / 顕微鏡 / フェムト秒 / 時間分解 / メタマテリアル |
研究実績の概要 |
本研究では、メタサーフェス内部へ入射する表面プラズモンポラリトン波束(SPP波束)の振る舞いをフェムト秒時間分解顕微鏡法を用いて可視化し、波束の空間的な形状や分布がフェムト秒時間スケールでどの様に変形していくかを捉える。 2018年度には、SPP波の電場・磁場に共鳴する金属-絶縁体-金属(MIM)積層型ナノ共振器を金(Au)薄膜上に設置し、遠方からフェムト秒SPP波束を入射した場合におけるSPP-ナノキャビティ相互作用ダイナミクスについてFDTDシミュレーションによる詳細な調査を行った。 2019年度には、引き続く解析により特に以下の内容が明らかになった。1.SPP波束がナノ共振器に入射した後の経路は大きく透過と反射の2経路であり、さらに透過の経路は共振器内部を通過する浸透波と共振器の外側を通る回折波に区分される。2.共振器の透過スペクトルは概ね共振器の共鳴スペクトルを反映し、それ以外の成分は反射される。その結果、透過波束と反射波束のスペクトルを比較すると相補的な関係になる。3.SPP波束はAu薄膜表面を伝搬中に正チャープを受け、パルス先頭部から後尾部にかけ周波数が上昇する。共振器により広帯域なSPPスペクトル成分のうち一部分のみが選択的に切り取られることにより、共鳴ピークが波束スペクトルの低(高)振動数側に一致する場合、透過波束のピーク強度位置が前進(後退)し、見かけ上の群速度が増大(低下)する。特に、3の特性はメタマテリアル構造による新たな波束伝搬の制御法を提案するものである。 FDTDシミュレーションによる当予測に基づき、パルス幅10fs、波長800nmのフェムト秒パルスを用い、構造幅を系統的に変化させたナノ共振器へのSPP波束入射の時間分解可視化実験を行った結果、シミュレーションとよく合致する結果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
近赤外領域で特異な光学特性を生じるメタマテリアルのビルディングブロックである、金属-絶縁体-金属(MIM)積層型ナノ共振器とSPP波束の相互作用ダイナミクスについての研究を、時間分解顕微鏡法による波束のイメージング、およびFDTD法によるシミュレーションの、実験・シミュレーション解析の両面から行い、ナノ共振器を透過する際に生じる波束形状の変形、ならびに、波束のチャープの自由度と組み合わせた場合に生じる見かけの「群速度」の変調について、統一的な理解を得るに至った。
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今後の研究の推進方策 |
現在までの研究により、MIM型ナノ共振器をビルディングブロックに用いたメタマテリアルがSPP波束の特異な伝搬機構を研究する上で優れた系であり、加えて、フェムト秒SPP波束のチャープ自由度まで考慮に入れることにより多彩な波束伝搬の制御が可能であることが示された。今後はこの方針を推し進め、多様なメタマテリアルにおけるSPP波束ダイナミクスの解明を行っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度まで研究が進捗した結果、2020年度内に幾つかの原著論文の出版が見込まれる状況となり、論文出版費の確保のため繰り越しを行う事とした。2020年度は研究計画を進めると共に、成果についての論文執筆を行っていく。
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