2018~2019年度に掛け、近赤外光領域のメタサーフェスを構成する代表的なメタ原子である、金属-絶縁体-金属(MIM)積層型ナノ共振器とフェムト秒表面プラズモン波束の相互作用ダイナミクスについて、時間分解蛍光顕微鏡法による波束のフェムト秒映像化、ならびにFDTDシミュレーションによる研究を進めてきた。その結果、金属膜上に形成したMIMナノ共振器に表面プラズモン波束が入射する際、 ・ナノ共振器の固有モード振動数に一致するスペクトル成分は共振器内を透過し、他の成分は反射する。 ・表面プラズモン波束は金属膜上を伝搬する間にアップチャープパルスに変形する。その結果、波束の搬送波周波数に対し、共振器の固有振動数をレッド(ブルー)シフトした場合には透過波束の強度ピークの前進(後退)が生じる。 との結論を得た。 2021年度は、解析をさらに進め、MIM共振器内部を含む金属膜上における波束の伝搬・変形を、表面プラズモンの複素分散曲線、および、ローレンツ型多極振動子の応答に基づいた波束応答のモデル構築を行った。実験では、MIM共振器の構造長を50~220 nmの範囲に渡り系統的に変化させ、表面プラズモン波束を入射した際に生じる透過波の波形や、強度ピークの空間座標を計測した。透過波束のピーク位置はMIM共振器の構造長に対し鋭敏に変化し、前方シフト、後方シフト、あるいは2ピークへの分裂、と様々な変化を示したが、これらの変化はモデル計算と良い一致を示した。また、さらに議論を進めた結果、透過波束のピークシフト値はプラズモン波束の励起パルス光へのチャープ付与により外的に制御が可能である事が見いだされた。波束のピークシフトからMIM共振器を通過する「波束の見かけの速度」が定義でき、チャープによる「見かけの群屈折率」の操作は-40~60もの範囲に及ぶとの結論を得た。
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