研究課題/領域番号 |
18K03481
|
研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
音 賢一 千葉大学, 大学院理学研究院, 教授 (30263198)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 光渦 / 量子ホール効果 / エッジ状態 / スピン / キラリティ / 2次元電子系 / 光起電力 |
研究実績の概要 |
光渦は、その中心軸の周りにらせん状の等位相面をもち、放射状の電場や中心軸を周回する方向の回転電場が発生するキラリティを持った光であり、いわゆる光の軌道角運動量を有した電磁波である。光渦が半導体に吸収されたときに生じる励起電子の状態は、通常の光励起によるものとは異なる可能性があり、光渦により生成した半導体中の励起子への軌道角運動量転写や、微粒子の回転マニュピレーションなど、興味深い現象も報告されている。この光渦による半導体中の電子励起の際に、光渦の軌道角運動量および円偏光成分による角運動量が、電子系にどのように転写されるのかは興味深い課題であり、実験的にも未解明な点が多い。さらに、電子系自身がキラリティを持つ量子ホール電子系に対する光渦励起の研究報告は無い。量子ホール電子系は強磁場によるスピン分離したランダウ量子化された状態にあるため、電子系の軌道角運動量やスピン角運動量は明確になっており、光励起によって生じたキャリアによる伝導やスピン状態を計測することで光渦との相互作用が他の系より顕著に表れるものと期待される。本研究は、光渦照射の際に、電子系に対してどのように角運動量を転写するのか、特に電子系がキラリティを有する場合にどうなるのかという、全く未解明の現象に対して実験的に調べるものである。 令和元年度には、前年度に引き続き光渦の軌道角運動量と円偏光による角運動量が量子ホール電子系や、関連する電子励起に対してどのように影響を及ぼすのかを解明するため、光渦の顕微照射実験系の構築とその改良を行った。また、試料となるGaAsヘテロ構造2次元電子系の形状を様々に工夫して、光渦の光強度プロファイルと2次元電子系のエッジ状態の位置関係が実験的に最適となるように試行錯誤を行った。これらを用いて光渦状態および円偏光状態の制御された励起光照射による電気伝導度変化と光起電力の変化について調べた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、量子ホール電子系と光渦の相互作用を、他に先駆けて実験的に研究するものである。研究開始年度である平成30年度には、光渦の軌道角運動量成分および円偏光成分を制御した光渦を半導体2次元電子系に照射できる実験系を構築した。特に、本研究で用いているPCから制御された空間位相変調器によるホログラム法での光渦生成は、周期的にホログラムを変化させて光渦状態を変調し、その変化に同期した伝導度変化や光起電力変化をロックイン計測で行い、微小な変化でも検出可能なものとしたオリジナルなものである。さらに、円偏光成分も液晶リターダーによりPC制御可能とすることで、光渦のトポロジカルチャージと左右円偏光状態を制御し周期変調された励起光を生成する実験系の構築にも成功した。 令和元年度から行っている半導体2次元電子系試料(GaAs/AlGaAsヘテロ接合)の試料形状の最適化では、電子ビーム露光を用いた微細加工を駆使して、光渦の照射領域と試料の形状(特に端の形状)がマッチングするような形状を模索し、光渦の照射による伝導度変化と光起電力の変化がより顕著となるものを探索した。試料のバルク部分に単純に光渦を照射しても伝導度の変化はほとんど検出されず、量子ホール電子系の試料端におけるエッジ状態に対する光渦照射が重要であることが分かってきた。さらに、様々なスポットサイズの光渦やトポロジカルチャージの大きな光渦による詳しい実験的をおおむね順調に進めているところである。ただ、令和元年度末より世界的に拡散したCOVID19禍により、研究成果発表を通じて関連研究者との議論をするべく参加を予定していた国内外の学会・国際会議等が中止や延期となり、学会等での成果発表は次年度以降に持ち越されている。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでに構築・改良を行ってきた光渦および円偏光の制御と周期的変調が可能な光渦照射系について、極低温・強磁場下にある半導体2次元電子系試料に照射する際のスポットサイズおよび光照射位置の再現性をさらに高める工夫を行い、長時間のデータ積算や照射位置の走査による顕微的な計測の精度を高める。これにより光渦照射による電気伝導度・光起電力効果の変化で電子のスピン状態の計測を位置分解して行うことのできる実験系を構築する。令和2年度は以下の実験研究を推進し、成果発表を行う。 (a) 光渦の照射位置依存性とエッジ状態: 前年度に引き続き、光渦の与える伝導度変化および光起電力の変化について試料上での顕微マッピングを行う。様々な試料形状のものについて、光渦を試料端に照射するときの伝導度変化を詳細に調べるとともに、試料端の無いコルビノ形状での結果、磁場反転による変化とも比較し、エッジ状態と光渦のカイラリティの関連を実験的に探る。 (b) 光渦による量子ホール電子系の伝導度変化と励起スペクトルの計測: 量子ホール系では、電子濃度と磁場値によりランダウ準位の占有数が容易に求められ、また、電子励起に必要な光のエネルギー(励起波長)も磁気光吸収の実験から得られることに着目し、励起波長、光渦のトポロジカル・チャージおよび円偏光度(左・右)のパラメータの様々な組み合わせの際の電気伝導度および光起電力の変化を詳細に計測して、電子励起に与える影響について詳しく調べる。光磁気Kerr回転計測などの光学的手段も併用して、電子スピン偏極度の励起スペクトル測定を行い、円偏光と光渦での励起がカイラリティをもつ強磁場中の量子ホール電子系に対してどのように異なるのかを調べる。 (c) 研究成果報告と議論: COVID19の影響のない範囲で、学会・国際会議で成果発表と議論を行うとともに、投稿論文として成果をまとめる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
大学における運営費交付金等の繰り越しのできない予算を優先して先に使用したため、次年度使用額が生じた。令和2年度の液体ヘリウム寒剤の利用料金が大きくかさむことが想定されるため計画的に繰り越して、低温寒剤利用費にあてる予定である。
|