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2020 年度 実施状況報告書

物質中の量子電磁力学:ディラック電子系・ワイルフェルミオン系物質の動的応答

研究課題

研究課題/領域番号 18K03482
研究機関東京大学

研究代表者

前橋 英明  東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 特任研究員 (30361661)

研究分担者 松浦 弘泰  東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (40596607)
研究期間 (年度) 2018-04-01 – 2022-03-31
キーワードディラック電子系 / 有機導体 / 量子電磁力学 / 電磁双対性 / 動的応答 / 反磁性 / コンダクタンスの量子化 / 核磁気共鳴
研究実績の概要

本研究の目的は、「ディラック電子系・ワイルフェルミオン系物質に特有な動的応答を異方性の効果を考慮した物質中の量子電磁力学(QED)を用いて定量的に理論予測すること」である。この目的のためビスマスやTaPなどの三次元系物質を主な対象として研究を進めてきたが、有機導体で実現する二次元バルクのディラック電子系でも物質中のQEDは非常に有効であり、伝導面に垂直な方向と平行な方向の異方性を利用することによって、定量的な理論予測が可能であることがわかった。これは、以下に示す(1)理論の次元によらない一般化と(2)実験グループとの共同研究という、当初予期していなかった新しい展開へと導いた。
(1)QEDのローレンツ対称性に起因する電磁双対性と対応して、ディラック電子系の動的な電気応答と磁気応答は本質的に等価であることを示し、それらを結び付ける次元によらない関係式を導いた。三次元の場合、この関係式から大きな反磁性と誘電率の増大の間に成り立つ既存の関係が得られる。一方、二次元系の大きな反磁性は、二次元特有の現象であるコンダクタンスの量子化と関係づけられるという新たな知見が得られた。
(2)理研と東邦大の実験グループによる有機導体α-(BETS)2I3の測定データを、物質中のQEDを用いて定量的に解析することにより、この物質は、(ⅰ)電子相関効果が無視できる理想的な二次元バルクのディラック電子系であること、(ⅱ)大きな軌道反磁性を示すこと、(ⅲ)軌道磁化率と電気伝導率の間にQEDの電磁双対性と対応した強い相関があることを示した。
また、ディラック電子系と関連性が強い物質としてディラックノーダル物質、遷移金属ダイカルコゲナイド、励起子絶縁体に着目し、ノーダルライン半金属のホール伝導率の磁場角度依存性、MoTe2のゼーベック係数の符号反転の起源、熱伝導率への励起子絶縁体特有の寄与の存在を明らかにした。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

三次元ディラック電子系では、QEDの紫外発散と対応して一様誘電率が増大する。一方、二次元ディラック電子系では一様誘電率は増大せず、その代わりにコンダクタンスが量子化される。このように次元によってディラック電子系の電気的性質は大きく異なるにもかかわらず、ディラック電子系の電気的性質と磁気的性質の間には、QEDのローレンツ共変性と対応する次元によらない普遍的な関係があることを見出した。これは当初予期していなかった大きな発見であり、現実の二次元系物質において、その異方性の効果を積極的に利用することで定量的に理論予測し、実験的に検証するという新たな展開を見せた。
また、多様なディラック・ワイル物質への理論展開として、ディラック電子系と関連性が強い物質の輸送現象や熱電効果の研究も進展しており、遷移金属ダイカルコゲナイドなどで実現する新たな二次元ディラック電子系物質への応用も視野に入ってきた。
このように本研究は予想外の発見とともに大きく進展した。しかしその一方で、新型コロナウィルス感染症の影響によりこれまでの研究成果の発表が遅れている。このような状況を総合的に見て、おおむね順調に進展していると判断した。

今後の研究の推進方策

これまでの研究成果をまとめるとともに、三次系物質だけでなく二次元系物質も含めた多様なディラック・ワイル物質を対象として、物質中のQEDの研究を発展させる。

次年度使用額が生じた理由

新型コロナウイルス感染症の影響で研究会の中止やオンライン開催への変更があり、予定していた旅費が不要になったため次年度使用額が生じた。次年度使用額は、研究会が現地開催になった際の旅費等に使用する予定である。

  • 研究成果

    (9件)

すべて 2021 2020

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件)

  • [雑誌論文] フォノンドラッグによるゼーベック効果-Boltzmann 理論を超えて-2020

    • 著者名/発表者名
      松浦弘泰, 前橋英明, 小形正男, 福山秀敏
    • 雑誌名

      固体物理

      巻: 55 ページ: 325-335

    • 査読あり
  • [学会発表] Effect of Phonon Drag on Seebeck Coefficient Based on Linear Response Theory2021

    • 著者名/発表者名
      Masao Ogata, Junya Endo, Hiroyasu Matsuura, Hideaki Maebashi, Hidetoshi Fukuyama
    • 学会等名
      TMS2021 Annual Meeting & Exhibition
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] 二次元ディラック電子系の電磁双対性:大きな軌道反磁性と量子化されたコンダクタンスを結ぶ関係2021

    • 著者名/発表者名
      前橋英明, 藤山茂樹, 小形正男
    • 学会等名
      日本物理学会第76回年次大会
  • [学会発表] MoTe2における熱電効果の理論的研究2021

    • 著者名/発表者名
      松浦弘泰, 高橋英史, 小形正男
    • 学会等名
      日本物理学会第76回年次大会
  • [学会発表] ノーダルライン半金属におけるホール伝導度と磁場角度依存性2021

    • 著者名/発表者名
      立石幾真, Viktor Konye, 松浦弘泰, 小形正男
    • 学会等名
      日本物理学会第76回年次大会
  • [学会発表] 熱電現象におけるパラマグノンドラッグの理論2021

    • 著者名/発表者名
      遠藤純矢, 松浦弘泰, 小形正男
    • 学会等名
      日本物理学会第76回年次大会
  • [学会発表] 常圧二次元ディラク電子系α-(BETS)2I3の軌道磁性2020

    • 著者名/発表者名
      藤山茂樹, 前橋英明, 崔亨波, 圓谷貴夫, 小形正男, 加藤礼三
    • 学会等名
      日本物理学会2020年秋季大会
  • [学会発表] 起子絶縁体の熱伝導率に関する理論的研究II2020

    • 著者名/発表者名
      寶田真太, 小形正男, 松浦弘泰
    • 学会等名
      日本物理学会2020年秋季大会
  • [学会発表] 常圧二次元ディラック電子系α-(BETS)2I3の軌道磁性:理論の立場から2020

    • 著者名/発表者名
      前橋英明
    • 学会等名
      科研費合同研究会「分子性導体でみられる異常軌道磁化率の研究会」
    • 招待講演

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公開日: 2021-12-27  

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