本研究では、理研の自由電子レーザー施設SACLAの軟X線ビームラインBL1を利用し、原子の多光子多重イオン化過程について、それに関与する量子状態を能動的に操作し、その進行をコントロールすることを目指した。具体的には、自由電子レーザーに加えて高強度赤外レーザーを併用することにより、多光子吸収経路での共鳴遷移に関与する量子準位のエネルギーレベルをシフトさせ、その共鳴遷移の抑制あるいは増強を起こし、多光子吸収過程全体の進行をコントロールすることを企画した。 2020年度においては、11月にSACLA利用実験を実施した。キセノン原子の光2重イオン化に対して、磁気ボトル型電子分光装置を用いたシングルショット光電子分光実験を行った。自由電子レーザーによる2重イオン化過程において中間生成している一価イオン状態をプローブするために近赤外レーザーを併用し、近赤外レーザーによる一価イオン状態の光イオン化で放出された光電子を計測した。自由電子レーザーパルスと近赤外レーザーパルスの遅延を掃引することにより、中間生成しているイオン状態の寿命を計測することに成功した。この際、昨年度構築した自由電子レーザーと赤外レーザーのショットごとのタイミング差のモニター技術を利用することにより、fs領域の時間分解能を達成することができた。そこでは、数百fsと数psの2成分の寿命が観測された。このことは2重イオン化連続状態とのカップリングが大きく異なる一価イオン状態が関与していることを示唆している。
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