研究実績の概要 |
本研究では、有機/金属界面の形成に関わる分子軌道と金属表面電子状態との相互作用を明らかにすることを目的とした実験研究を実施する。とくに分子軌道に加えて金属基板の電子状態変化を捉えるため、金属基板としてバルク金属ではなく半導体基板上に作製した金属超薄膜を用いるところに特色がある。 まず始めに有機分子の真空蒸着装置の製作を行った。るつぼをφ3.0 mm、肉厚0.05 mmのタンタル管から作製して加熱部全体を小型化したことにより、蒸着中の脱ガス量を大幅に抑制するに成功した。このため、当初予定した水冷機構付きの市販蒸着源を購入する代わりに、2台の自作蒸着源を製作し、複数種類の分子についての実験を効率的に進めるための環境を整えた。 実験としては、Si(111)表面上に作製した2原子層のIn超薄膜を基板として、サブモノレイヤーから2,3分子層までの範囲におけるフタロシアニン(H2Pc)および金属(M=Fe, Co, Cu)を内包したフタロシアニン(MPc)の吸着状態を低速電子回折(LEED)と表面電気伝導度測定によって調べた。ここから、吸着分子が2次元結晶を形成する過程における被覆率および温度の効果を明らかにした。電子状態については、FePc吸着表面について角度分解光電子分光測定を行った。スペクトルの膜厚依存性から、単分子層に特有の電子状態をフェルミ準位近傍に見つけた。この電子状態は表面平行方向について分散しておらず、分子に局在した状態と判断された。一方、In超薄膜の2次元自由電子的なフェルミ面について吸着による変化は確認されなかった。現在、分散関係における分子吸着の影響を解析中である。 このほか、新しい基板金属となりうる1原子層のIn超薄膜の電子状態および原子構造の研究も行った。この単原子層の金属的な電子構造を明らかにし、温度による金属-絶縁体転移についても調べた。
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