研究実績の概要 |
本研究では有機/金属界面の電子状態形成に関わる分子軌道と金属的な表面状態との相互作用を解明することを目的としている。実験は主に角度分解光電子分光法(ARPES)を用い、吸着有機分子と基板金属の電子状態の分散関係も含む精密な測定を行った。基板金属は二次元自由電子的な表面状態を有するSi(111)基板上のIn超薄膜とし、吸着有機分子には金属フタロシアニン(MPc; M=Fe, Co, Ni, Cu)およびフタロシアニン(H2Pc)を用いた。これらすべての単分子層がIn超薄膜に整合する、同一の長周期配列をもつことを低速電子回折(LEED)観察によって明らかにした。一方、単分子層以下では、主に二つに分類できる振る舞いが確認された。すなわち、FePcとCoPcは低被覆率から凝集し単分子層アイランドを形成したが、それ以外の分子は0.7分子層程度までガス状に分散した状態をとった。これは前者の2つの分子では、分子-分子間の引力的な相互作用が強いことを表している。ARPES実験では界面電子状態をすべての分子で観測した。九州シンクトロン光研究センターで実施した実験からFePcとCoPcの界面状態は3d電子を主成分とするeg分子軌道に由来することが分かった。一方、その他3つの分子の界面状態は配位子軌道に由来する特徴を示した。In超薄膜のバンド分散には界面形成に対応する変化を見つけられなかったが、仕事関数の変化が観測された。分子間の引力相互作用は、長い中心金属間距離を考慮すると、基板を介した相互作用と考えられ、これに伴う金属表面の電子状態変化が仕事関数に現れたと考えられる。この他、金属的な超薄膜基板としてSi(111)基板上でのIn-Mg合金層やBi2Te3超薄膜の作成および物性評価も並行して行った。
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