研究課題/領域番号 |
18K03492
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
段下 一平 近畿大学, 理工学部, 准教授 (90586950)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 冷却気体 / 光格子 / ホログラフィー |
研究実績の概要 |
本研究課題の目標は、光格子中に閉じ込めた極低温の量子気体を用いて量子重力理論とホログラフィー的な意味で双対である量子多体系を実験で実現する方法を提案することである。ある量子多体系がそのような双対を持つことを判定する方法の一つとして、量子ダイナミクスにおけるカオス的性質を特徴付ける量子的リヤプノフ指数の温度依存性を調べることが有効であると予想されている。今年度の研究では、行列積状態を用いて空間一次元の量子多体系の有限温度ダイナミクスを厳密に計算する手法であるminimally entangled typical thermal states (METTS)アルゴリズムの計算効率を大幅に改善することに成功した。具体的には、マルコフ連鎖型モンテカルロサンプリングにおけるサンプル間の強い相関がこの手法の計算効率を著しく下げる要因であったところ、アルゴリズムの途中に複数のトロッターゲートを挿入することでこの相関を劇的に軽減することに成功した。 また、フェルミ気体をカゴメ型の光格子に搭載すると、3つのバンドのうちの一つが平坦バンドとなることが知られている。ごく最近の他グループの研究で、この平坦バンド中のフェルミ気体にランダムポテンシャルを加えた系が量子重力理論と双対になるという提案があった。しかしながら、通常のフェルミ気体ではカゴメ格子の平坦バンドは励起バンドであるため、平坦バンドのみに粒子を閉じ込めておくことはできない。本研究では、負の絶対温度を持つ気体を作ることで励起バンドに安定に粒子を閉じ込めておけることを、三角光格子の系を例として示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度に立てた推進方策として、有限温度ダイナミクスから量子重力理論の双対となる情報を引き出すために必要な数値計算手法を開発することを挙げた。「研究実績の概要」で述べたようにMETTSアルゴリズムの大幅な改善を実現できたという意味で、順調に研究が進捗したと言える。 また、昨年度の研究で、本研究課題開始当初に量子重力理論と双対であると見込んでいた光格子中の二成分ボース気体およびスピン1ボース気体がそうでないということがわかって、新たな候補を探していた。「研究実績の概要」で述べたように負の絶対温度の気体を利用して励起バンドのみに粒子を閉じ込める方法がわかったことで、模型実現の提案に関しても一定の成果が挙げられたと言える。
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今後の研究の推進方策 |
今年度に開発した改良METTSアルゴリズムを用いて量子多体系の量子的リヤプノフ指数の温度依存性を計算することを試みる。量子重力理論と双対な系では量子的リヤプノフ指数がその上限値を取ることが提唱されているので、量子的リヤプノフ指数が大きいことで知られる量子相転移の臨界領域を狙ってそれを計算する。 今年度、三角格子で確認した負の絶対温度を利用して安定的に励起バンドに粒子を閉じ込める方法を、カゴメ格子の平坦バンドにも応用可能であることを確かめ、量子重力理論と双対な系の具体的な実現方法の提案につなげる。
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次年度使用額が生じた理由 |
有限温度の量子多体系の数値計算アルゴリズムの開発がうまくいき、次年度にその応用のためにより多くの計算機資源が必要であるという見通しになり、次年度のはじめ頃に新規の計算機購入予定であるため。
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