本研究課題の目標は、光格子中に閉じ込めた極低温の量子気体を用いて量子重力理論とホログラフィー的な意味で双対である量子多体系を実験で実現する方法を提案することである。ある模型がホログラフィーを持つかどうかの検証のためには、その系の量子クエンチに対するダイナミクスを調べることが常套手段の一つである。今年度の研究では、ホログラフィーを持つ模型の理論解析に必要な数値計算手法として、2次元空間の強相関量子多体模型のクエンチダイナミクスに対するSU(N)切断Wigner近似の性能を検証した。SU(3)切断Wigner近似をBose-Hubbard模型に適用し、その計算結果と量子シミュレーションを比較して、SU(3)切断Wigner近似が定量的な計算結果を与える時間領域を明らかにした。Bogoliubov-Born-Green-Kirkwood-Yvon階層方程式を用いてSU(2)切断Wigner近似を拡張することで、SU(2)切断Wigner近似の性能評価を可能にした。その方法論を用いて、長距離相互作用を持つスピン1/2系のクエンチダイナミクスに対するSU(2)切断Wigner近似の性能評価を具体的に行い、相互作用距離に対して定量的な計算可能時間がベキ的に伸びることを示した。 また、フェルミ気体をカゴメ型の光格子に搭載すると、3つのバンドのうちの一つが平坦バンドとなることが知られている。ごく最近の他グループの研究で、この平坦バンド中のフェルミ気体にランダムポテンシャルを加えた系が量子重力理論と双対になるという提案があった。本研究では、負の絶対温度を持つ気体を作ることでカゴメ格子の平坦バンドに安定に粒子を閉じ込めておけることを示した。
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