研究課題/領域番号 |
18K03495
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
小栗 章 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 教授 (10204166)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 物性理論 / 量子ドット / 強相関電子系 / 近藤効果 / フェルミ流体 / 電流ノイズ / 非平衡状態 / ケルディッシュ・グリーン関数 |
研究実績の概要 |
2020年度も、昨年度にひき続き、量子ドット系の非平衡近藤効果における低エネルギー・フェルミ流体領域の輸送現象に対する局在電子の三体相関の寄与に関する研究を精力的に進めた。今年度の大きな成果として、小林研介教授(阪大理、東大理)のグループとの共同研究により、カーボン・ナノチューブ量子ドットの電気伝導度の高感度測定結果と本研究の定式化による理論式との比較検討を通して、輸送係数の実験から三体相関を決定することに初めて成功したことが挙げられる。特に、近藤効果が外部磁場により抑制される過程において、電子間の三体相関がトンネル電流に対するバイアス電圧の3次の非線形項に与える影響が、最新のフェルミ流体論で説明されることが実験的に示された。この成果は、秦徳郎氏(現・東工大理・助教)および寺谷義道(現・大阪市大・特任助教)の二人の若手研究者を中心とした解析によって得られたもので、論文はNature Communications誌への掲載が決定している[1]。量子凝縮相に与える三体相関の寄与は、冷却原子気体、固体3He、フラストレーションのある磁性体等においても重要性が見いだされているものであり、本研究でも今後さらに発展させる予定である。 [1] Tokuro Hata, Yoshimichi Teratani, Tomonori Arakawa, Sanghyun Lee, Meydi Ferrier, Richard Deblock, Rui Sakano, Akira Oguri, and Kensuke Kobayashi, “Three-body correlations in nonlinear response of correlated quantum liquid”, Nature Communications (accepted for publication).
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
「研究実績の概要」の欄で述べた、共同研究に加え、カーボン・ナノチューブ量子ドット系で観測されている、磁場中で誘起されるSU(4)近藤状態からSU(2)近藤状態へのクロスオーバーに関するフェルミ流体論と数値くりこみ群に基づく微視的理論解析と実験との比較、およびSU(4)近藤状態における電気伝導度の温度依存性の普遍スケーリング関数の局在電子数依存性について、今年度は三体相関の寄与に関するより詳細な検討を加え、論文を出版した[2]。また、SU(4)、およびSU(6)対称性を持つAnderson模型で記述される量子ドット系の電流ノイズに関して、非線形応答領域における三体相関の寄与に関する理論解析を進め、電子間斥力の強相関領域では、独立な三体相関の成分の数がただ一つになること等が今年度の研究を通して明らかになり、Physical Review Letters誌に論文を出版した[3]。 [2] Y. Teratani, R. Sakano, T. Hata, T. Arakawa, M. Ferrier, K. Kobayashi, and A. Oguri, "Field-induced SU(4) to SU(2) Kondo crossover in a half-filling nanotube dot: spectral and finite-temperature properties", Phys. Rev. B 102, 165106 (2020). [3] Y.Teratani, R. Sakano, and A. Oguri, "Fermi liquid theory for nonlinear transport through a multilevel Anderson impurity", Phys. Rev. Lett. 125 216801 (2020).
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今後の研究の推進方策 |
本研究で推進している量子ドットを中心とした量子不純物系のフェルミ流体領域における輸送理論の拡張を、さらに広く多様な状況に展開する。これまでに、電子正孔対称性を仮定できない場合や、外部磁場により時間反転対称性が破れた場合には、輸送係数の低温・低バイアス展開の第2主要項に局在電子の三体相関が普遍的に現れることを示してきた。これらは、主として遅延Green関数の低エネルギーの振る舞いにより説明できるが、非線形電流ノイズに関しては、バーテックス補正の振る舞いも影響する。我々は、ケルディッシュ形式の非平衡バーテックス関数の振る舞いを総括する微視的フェルミ流体論の構築を進めており、電流保存則から得られる輸送係数の間の一連の関係式を系統的に総括した長編の論文を執筆中である。また、同時に様々な具体的な応用に、数値くりこみ群および軌道数が大きな極限からの摂動理論である1/(N-1)展開法等を用いて取り組んでいる。特に、三体相関の効果は、局在電子数の変化する価数揺動領域においてより顕著に現れる傾向があるため、この領域を含めた広いパラメータ領域において電子間斥力Uによる輸送特性の変化を強相関U→∞の極限まで調べる。この研究は、軌道数Nの変化(N=2,4,6,…,∞)、磁場依存性、量子ドットとソース・ドレイン電極間のトンネル接合の左右非対称性に伴う電荷分布の不均一効果まで含めて、総合的に推進している。さらに、多重量子ドット系に複数の常伝導電極と超伝導電極が接続された系で起こる、交差アンドレーエフ散乱による非局所的な電気伝導に関する研究を進めている。超伝導接合系における電子相関について高次Fermi流体補正の実験的検証まで視野に入れた理論の確立を目指している。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度も、COVID-19の感染拡大のため、国内および国外で開催される学会のほとんどがオンラインになった。特に、国内および海外への出張を中止したため、旅費相当額を繰り越すことになった。その分は、2021年度の旅費、物品、その他の研究経費として有効に使用する。
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備考 |
Theory describes quantum phenomenon in nanomaterials, https://www.osaka-cu.ac.jp/en/news/2020/theory-describes-quantum-phenomenon-in-nanomaterials これらの記事は全て、阪野塁、寺谷義道、小栗章の共著原稿を元に作成されたものである。
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