本研究の目的は、半導体結晶における異種の光励起過渡現象(非平衡キャリア輸送過程および縦光学フォノン・プラズモン結合モード)が共存した条件でのテラヘルツ電磁波放射応答を解明することである。実験面では、レーザー光源およびテラヘルツ電磁波時間波形計測システムを継続的に整備し、光励起条件、試料構造、温度など、さまざまな条件下での電磁波放射応答を系統的に観測した。理論面では、電子分極と格子変位の結合振動をモデル化した方程式に基づいて、テラヘルツ電磁波時間波形の解析方法を構築した。また、光励起キャリアの輸送特性がテラヘルツ電磁波放射に強く寄与することを踏まえ、電子輸送過程のモンテカルロシミュレーションを並行して実施し、上記解析方法の妥当性を検証した。以上により、非ドープGaAsとn型GaAsのエピタキシャル層構造における2成分重畳下でのテラヘルツ電磁波時間波形を、包括的に説明することに成功した。具体的には、電子分極の時間進展にあらわれる非コヒーレント成分(ステップ型)とコヒーレント成分(減衰振動型)が、それぞれ非平衡キャリア輸送過程と縦光学フォノン・プラズモン結合モードの電磁波放射として観測されると解釈し、共存下特有の電磁波放射応答の描像を提示した(論文発表)。さらに、得られた知見に基づいて、放射応答の制御の観点から研究を行った。まず、上記の時間波形の解析結果に基づいた検討から、縦光学フォノン・プラズモン結合モードの電磁波放射が最適となる半導体構造(空乏層圧)の指針を得た。また、時間差を精密に制御した光パルスペアの照射による電磁波放射を調査し、その時間波形が電子分極の時間進展を反映して時間差で複雑に変化することを明らかにした。
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