研究課題
本年度はこれまで研究を行ってきたYbAX2(Yb:イッテルビウム、A:アルカリ金属元素、X:カルコゲン)と同様に、二次元三角格子を組むRCd3P3(R:希土類元素、Cd:カドミウム、P:リン)の研究を進めた。CdとPの混合フラックスを用いた手法により、La(ランタン)、Ce(セリウム)、Pr(プラセオジム)の希土類元素について単結晶作製に成功した。しかしながら、Prより原子番号の大きい希土類元素による結晶作製は容易ではないことが分かった。初めての物性報告となるPrCd3P3に関しては0.4Kまで磁気秩序を示さないこと、また、結晶場解析から結晶場基底状態が非磁性の一重項であり、励起状態の二重項まで約70K離れていることを明らかにした。研究期間全体を通じて、結晶中にYbの二次元三角格子をもつ絶縁体化合物に関する磁性の研究を進めてきた。YbAX2系はYb層の層間距離が十分に離れており、理想的な二次元三角格子と見なすことができる。本研究ではYbKS2の単結晶試料の作製に成功した。測定温度範囲内で磁気秩序が存在しないこと、また種々の二次元三角格子の理論模型で予想された低温領域に現れる比熱のブロードなダブルピーク構造の観測から、量子スピン液体状態の候補物質となることを示した。また、YbNaO2においては、研究遂行中に海外グループによるギャップレスな中性子非弾性散乱スペクトルの観測がなされており、この系の重要性が高まっている。同組成比のYbAgS2は磁気転移温度直上の帯磁率に特徴的な温度依存性が現れる。この物質は上記の二次元三角格子系とは異なり、結晶中でYbが一次元ジグザグ鎖構造を形成することを明らかにした。さらに、電子スピン共鳴実験より決定したg因子を用い、一次元鎖内と鎖間の相互作用を取り入れたハイゼンベルグ反強磁性鎖模型によって、帯磁率の振る舞いを説明することに成功した。
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