研究課題/領域番号 |
18K03505
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
深澤 英人 千葉大学, 大学院理学研究院, 准教授 (90361443)
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研究分担者 |
小堀 洋 千葉大学, 大学院理学研究院, 教授 (10153660)
川股 隆行 東北大学, 工学研究科, 助教 (00431601)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 擬ギャップ / 反強磁性ゆらぎの抑制 / d波超伝導 |
研究実績の概要 |
銅酸化物高温超伝導体はその発見以来、母物質である反強磁性モット絶縁体にキャリアを注入することにより超伝導が発現すると考えられてきた。しかし、近年Nd2CuO4構造いわゆるT’構造をもつ電子ドープ型高温超伝導体において、過剰酸素を取り除くことにより、電子をドープしなくても超伝導が発現する可能性が示された。しかし、一方で実験的に示されてきたこのノンドープ超伝導は、実は酸素がCuO2面から取り除かれ電子ドープが起こっており、その超伝導は従来通りのドープされたモット絶縁体としての高温超伝導であるとも、最近の研究では指摘されている。 T’-PLCCOやT’-LECOは、適切な還元処理により、超伝導を示し、還元処理の度合いにより超伝導転移温度Tcの異なる試料を得ることができる。本年度は、様々なTcをもつこれらの試料の中でT’-PLCCOに注目し、系統的に63,65Cu核、139La核のNMR測定を行なった。そのスペクトル形状と第一原理計算を基にしたシミュレーションとを組み合わせて解析を行い、結晶中のどの位置の酸素が除去されているかを同定することを試みたがこれについてはまだ決定的なことを結論付けられるには至っていない。 さらに、温度を変化させて63,65Cu核のNMR測定を行なうことにより、この物質における磁気ゆらぎと超伝導の関係について調べた。具体的には、超伝導・常伝導状態における核スピン・格子緩和率測定およびナイトシフト測定を行なうことにより、超伝導対称性および反強磁性ゆらぎの有無・強さを明らかにした。特に、電子ドーピングが進むにつれて反強磁性ゆらぎが抑制されること、どのドーピング域においてもd波超伝導状態が実現していることが明らかになった。また、電子ドープ型のNMR研究では初めて擬ギャップ現象を観測した。 以上の計画を実行するために、設備品としてNMRパルサーを新規に導入した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
結晶中の酸素欠損の位置決めに関して、決定的なことが言えない状況である。しかし、定量性をもって結論付けるには多くのデータが必要であり、これについては次年度以降に持ち越しとなっている。 今年度もっとも驚きの結果と言えるのは、電子ドープ型銅酸化物高温超伝導体のNMR測定で初めて擬ギャップ現象を観測したことである。これは、銅酸化物高温超伝導体における電子ホール対称性が存在するかという問題への足掛かりになる結果であると考えられる。 以上のことから、本研究課題は新たな知見も見出すことができたことからおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度見出した擬ギャップ現象に関して、現在のところ、T'-PLCCO(x=0.10)の組成でのみ観測されたにとどまっている。この組成から(Pr,Ce)の置換量でx=0.05ずれた組成ではこの現象は観測されていない。昨年度の研究成果を論文としてまとめるとともに、次年度はx=0.10に近い組成の試料で同様に擬ギャップ現象が観測されるかを吟味する。 また、T'-LECOの酸素をフッ素で置換した試料の合成も進んでおり、この試料では電子ドープが進んでいると考えられるが、この試料における反強磁性揺らぎや超伝導状態に関しても研究を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度はNMRパルス発生器などの備品を購入することができ、測定精度が向上した。しかし、備品の価格は年度によっても変動し、必要な消耗品なども購入したもののちょうど使い切るまでには至らなかった。次年度は請求額も今年度ほど高くはなく、消耗品としての液体ヘリウムの世界的な高騰が見込まれ、学内での単価も大幅に上昇する可能性が高いため、そのための資金の一部として次年度に使用したほうがより効率的に研究に取り組めると判断した。
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