研究実績の概要 |
銅酸化物高温超伝導体はその発見以来、母物質である反強磁性モット絶縁体にキャリアを注入することにより超伝導が発現すると考えられてきた。しかし、近年Nd2CuO4構造いわゆるT’構造をもつ電子ドープ型高温超伝導体において、過剰酸素を取除くことにより、電子をドープしなくても超伝導が発現する可能性が示された。しかし、一方で実験的に示されてきたこのノンドープ超伝導は、実は酸素がCuO2面から取り除かれ電子ドープが起こっており、その超伝導は従来通りのドープされたモット絶縁体としての高温超伝導であるとも、最近の研究では指摘されている。 T’-PLCCOやT’-LECOは、適切な還元処理により、超伝導を示し、還元処理の度合いにより超伝導転移温度Tcの異なる試料を得ることができる。本年度は、様々なTcをもつこれらの試料の中でT’-LECOのE(Eu)をS, C(Sr, Ca)で置換したT’-LE(S,C)COに注目し、系統的に63,65Cu核、139La核のNMR測定を行ない、さらに、温度を変化させて63,65Cu核のNMR測定を行なうことにより、この物質における磁気ゆらぎと超伝導の関係について調べた。具体的には、超伝導・常伝導状態における核スピン・格子緩和率測定およびナイトシフト測定を行なうことにより、超伝導対称性および反強磁性ゆらぎの有無・強さを明らかにした。本物質はT'構造のままホールドープを行なうことができるのが特徴であるが、ホールドーピングによって反強磁性ゆらぎはあまり変化しないこと、超伝導対称性はd波が実現していることが明らかになった。本研究課題を通じて、T'型の銅酸化物高温超伝導体においても擬ギャップ現象が本質的に存在することが明らかになった。今後はこの擬ギャップの起源を探ることが重要課題である。
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