研究実績の概要 |
本研究では化学組成が同じで結晶構造が異なる相が複数存在する磁性体を多形磁性体と呼ぶ。多形磁性体は、磁場による相制御が実現した場合、大きな磁気応答機能を持つことが期待される。本研究は、磁気応答機能が期待される多形磁性体は新たな機能性材料となりうるかという学術的問いに基づく。多形鉱物Al2SiO5と同じ化学組成の磁性体A2BO5の研究には (1)化学圧力で相制御可能な多形磁性体の創製、(2)結晶構造と磁性との相関の研究、(3)磁気応答機能の探索、という点に学術的独自性・創造性がある。そこで本研究ではA2BO5を系統的に合成して化学圧力で相制御可能な多形磁性体を創製し、基礎物性の評価により巨大磁歪などの磁気応答機能を探索することを目的とする。 当該年度はB=Geの場合に注目した。A2BO5は、カイヤナイト、アンダルサイト、シリマナイトの3種類の結晶構造をとる多型であるが、A2GeO5でははカイヤナイトとアンダルサイトの構造の磁性体しか得られていない。そこで、シリマナイト構造の磁性体の探索を行った。その結果、AとしてAl,Ga,Feをある混合比で合成した (Al,Ga,Fe)2GeO5においてシリマナイト構造をとる磁性体となることが明らかになり、また、シリマナイト構造となる物質が満たす構造パラメータの条件を明らかにすることができた。今後、この構造パラメータの条件を満たし、かつ磁性元素を含むさまざまなA2GeO5の合成を行い、シリマナイト構造のA2GeO5の磁性の特性を明らかにしたい。 これまで磁性体であるシリマナイト構造の(Al,Fe)GeO5の合成には成功していたが、その磁性がが全く明らかになっていなかった。純良な試料を用いて中性子散乱実験を行った結果、非整合の磁気構造であることが明らかになった。また、メスバウアー効果を用いた実験により、低温での磁気状態が明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
シリマナイト構造の磁性体探索のために、A2GeO5について、Aが様々な元素の場合において精力的に試料合成を行った。当該年度は、(Al,Fe)2GeO5、(Ga,Fe)2GeO5、(Ga,Al,Fe)2GeO5、(Al,Ni)2GeO5、(Al,Cr)2GeO5、(Al,V)2GeO5、(Al,Co)2GeO5の合成を行った結果、シリマナイト構造となる物質が満たす構造パラメータの条件を明らかにすることができた。これを指針として、今後、シリマナイト構造の各種磁性体を合成することが可能となった。 (Al,Fe)GeO5の純良な試料が合成できたことにより、精密な中性子散乱実験を行うことができ、アンダルサイト構造の磁性体の磁気構造を明らかにすることができた。
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