研究課題/領域番号 |
18K03507
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研究機関 | 富山県立大学 |
研究代表者 |
三本 啓輔 富山県立大学, 工学部, 准教授 (50515567)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 超伝導 / 電気16極子 / 電気四極子 / 縮退軌道 |
研究実績の概要 |
正方晶鉄系超伝導体における強電気16極子秩序と超伝導が同時に発現する機構を明らかにするために必要な予備実験として,構造相転移が消失する量子臨界点近傍になるようキャリアドープしたBa(Fe1-xCox)2As2 (仕込み濃度:x=0.075)の超音波実験を行った。弾性定数C66は150 Kから23 Kにかけ約60%のソフト化を示した。キュリー・ワイスフィットから,ワイス温度Q=-25.1 KとヤーンテラーエネルギーD=34 Kを得た。理論的に予想される構造相転移温度T_S=Q+D=8.9 Kは,先行研究の他の濃度の実験から得られた結果と比較して最も0 Kに近い値であった。これよりほぼ量子臨界点に近い試料であることがわかり,四極子-歪み結合を反映するDの値が他の濃度の試料に比べ,約1.5倍ほど大きいことが分かった。超音波吸収係数a66は転移点に向かって巨大な吸収を示した。第一原理計算パッケージWIEN2kを用いて超音波実験を説明できるような強束縛近似に基づく電子模型を構築している。 また鉄系超伝導体LiFeAsと同じ結晶構造をもつCeCoSiの単結晶育成が谷田らにより平成30年度に初めて成功した。CeCoSiの詳細な実験により12 Kで未知の相転移を示し,静水圧力を印加すると1.5 GPaで転移温度が40 K程度にも増大することが明らかにされた。RTX(R:希土類,T:遷移金属,X:Si,Geなど)は元素により様々な結晶構造を示し,また,静水圧力下において構造相転移を示すことから,構造の不安定生が指摘されている。そのためCeCoSiの未知の相転移の起源や圧力依存性を解明することは,鉄系超伝導体のみならず同様の結晶構造をもつ物質群の物性解明につながると期待される。そこで,CeCoSiの比熱や磁化率を再現するようなCeの4f電子の結晶場状態を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
鉄系超伝導体における電気16極子秩序と超伝導が同時に発現する機構と超音波実験による弾性定数と超音波吸収係数のふるまいを解明するために第一原理計算パッケージWIEN2kを用いて微視的模型を構築している。その最中に,静水圧力印加または元素置換による化学圧力の変化により構造相転移を示すRTXは鉄系超伝導体における構造相転移の不安定生と似ている。そのためCeCoSiの12 Kにおける未知の相転移の解明と静水圧力印加による相転移の異常な増強の機構の解明を行うことは,鉄系超伝導体における超伝導相と隣り合った電気四極子秩序相の量子臨界性を解明することと相補的に役に立つと期待される。そのため,単結晶育成の成功したCeCoSiにおけるCe3+の結晶場状態を求めることができたことは,本研究が波及効果をもち進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
鉄系超伝導体については,強束縛近似模型を構築し,電気16極子秩序を伴った超伝導の発現のために重要な電子状態を明らかにする。 またCeCoSiについては磁化率などからCeの4f電子がよく局在していることが示唆されるので,LaCoSiの第一原理計算を行いCoのd電子からなるフェルミエネルギー付近のバンドを再現する強束縛近似模型を構築する。さらに,その模型に Ceの結晶場状態を組み合わせて,CeCoSiの有効模型を構築する。そして,12 Kにおける未知の相転移,9.7 Kにおける反強磁性秩序を説明できる秩序変数の候補を平均場理論を用いて解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2点挙げることができる。1つは平成30年度に富山県立大学に異動し,本研究以外の業務が増えたため鉄系超伝導体に関する大規模計算が行えなかったことである。次に,CeCoSiの理論的物性解明のためにまずCe3+の結晶場状態の解明を行ったが,これは簡単な計算で行えるため研究費の投資をあまり必要としなかったことである。そのため,大規模計算に必要な予算を平成31年度分に繰り越した。 平成31年度は鉄系超伝導体とCeCoSiにおける有効模型を強束縛近似に基づいてそれぞれ構築する。さらに平均場理論を用いて,鉄系超伝導体の場合は電気16極子秩序を伴った超伝導発現の解明,CeCoSiの場合は12 Kにおける未知の相転移,9.7 Kにおける反強磁性秩序の秩序変数の解明を行う。
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