研究課題/領域番号 |
18K03507
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研究機関 | 富山県立大学 |
研究代表者 |
三本 啓輔 富山県立大学, 工学部, 准教授 (50515567)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 電気四極子 / 磁気双極子 |
研究実績の概要 |
正方晶希土類化合物CeCoSiにおけるCe3+の結晶場状態は磁性の自由度をもつ3つのクラマース二重項で構成される。比熱、磁化率、電気抵抗などの詳細な実験より、CeCoSiは9.7 Kにおける反強磁性秩序だけでなく、12 Kにおいて非磁性起源の相転移が現れることが報告されている。前者の相転移は磁気双極子を自由度にもつクラマース二重項基底状態が分裂することで、反強磁性が現れてたと理解できる。他方、後者の未知の相転移はクラマース二重項間の自由度やCeの4f電子だけでなく、Coの3d電子との混成効果による働きがあると考えられる。そこで、始めに比熱のショットキー・ピーク、磁化率の異方性などを再現する結晶場状態G7二重項 (0 K) - G6二重項 (123 K) - G7二重項 (165 K) を計算により求めた。次にその結晶場状態がもつ3つの磁気双極子相互作用と5つの電気四極子相互作用を正方対称を保持するように考慮することで、未知の相転移はどこまで理解できるのか、平均場理論の範囲内で調べた。その結果、未知の相転移は電気四極子Oxyが反強的に秩序したものであり、反強磁性秩序はJx+Jzが秩序変数として現れうることが分かった。また上記の結晶場では他の電気四極子は安定ではないと言える。面内と面間の磁化率は磁気転移で折れ曲がりを示すことから、CeCoSiの磁気モーメントはa軸とc軸の中間を向いていることが示唆される。核四重極共鳴実験より未知の相における電子状態の対称性が研究されているのが、その一つの候補として電気四極子Oxyの反強的な秩序が挙げられている。そのため本研究により得られた秩序変数は妥当だと言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
鉄系超伝導体と同様の結晶構造をもつCeCoSiの結晶場状態を解明し、未知の相転移と反強磁性秩序の起源となる秩序変数を解明することができた。しかしながら2020年度は世界的なコロナ禍に見舞われ、その対応による業務が非常に増えた。そのため、本研究を推進する時間を確保できなかったために、Ceの局在的な4f電子とCoの遍歴的な3d電子が混成したことによる拡張多極子が秩序変数となる可能性を調べる研究は実施できなかった。そのため進捗状況はやや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
CeCoSiの未知の相転移の起源として、Ceの4f電子だけでなくCoの3d電子が混成したことで現れる反転対称性の破れた系における拡張多極子由来の可能性について調べる。強束縛近似により3d電子の遍歴性を扱い、2020年度の研究において既に得られた4f電子の結晶場状態と組み合わせ電子状態を対角化する。2020年度に考慮した秩序変数はCeの原子に発現するものであったが、次年度はCeの4f電子とCoの3d電子による分子軌道がもつ多極子が秩序変数として現れうるのか調べる。 またこれらの研究を踏まえ、希土類元素R、遷移金属元素T、SiやGeのXの組み合わせによる同様の結晶構造をもつRTXについて、どのような物性を示すか理論的に予想する。
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次年度使用額が生じた理由 |
1つ目に2020年度は世界的なコロナ禍に見舞われ、その対応による業務が増え、本研究を推進する時間を確保できなかったことが挙げられる。2つ目にコロナ化により当初予定していた国内学会がオンライン開催、国際学会が中止となったために、学会参加に必要な諸経費をほとんど使用しなかったことである。2021年度は本研究の遅れを取り戻し、さらに推進するために、研究費は物品費を中心に充てる。
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