研究課題/領域番号 |
18K03509
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
阿部 聡 金沢大学, 数物科学系, 教授 (60251914)
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研究分担者 |
松本 宏一 金沢大学, 数物科学系, 教授 (10219496)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 超低温高磁場 |
研究実績の概要 |
物性研究において,基底状態をもたらす相互作用機構の解明には物質を秩序温度以下まで冷却する必要があるが,相反する相互作用が拮抗している場合や高次の秩序変数が支配的な場合, 秩序状態の出現が2桁以上低温になる。本研究では,温度10mK (0.01 K),磁場8Tの超低温高磁場 を用いることによりはじめて実現可能な f 電子の基底状態の研究として,電気四極子が秩序変数となる希土類カゴ状物質の基底状態,絶縁体スピン磁性体の異方磁気弾性係数による巨大磁歪について,結晶軸に対する磁場方向を制御 した熱膨張・磁歪の測定を行なうことで,基底状態をもたらす f 電子間相互作用の機構の解明を目指している。 希土類カゴ状化合物であるPr3Pd20Ge6は,Pr原子が対称性の異なる2種類のサイトに位置しているため,磁気秩序と複数の四極子秩序が共存する。我々はこれまでに,1mKまでの交流帯磁率測定・熱膨張測定から,Γ5 サイトでは70 mKで反強磁性秩序と60 mK以下での緩和機構の変化,Γ3サイトでは250mKで反強四極子秩序と9mKで核磁気秩序を示すことを明らかにしてきた。本研究では[001]. [110]方向について,10mK, 9Tの超低温高磁場環境での熱膨張・磁歪測定を行い磁気相図を明らかにするとともに,反強四極子秩序相内部に新しい相の存在を示唆する結果を得た。また,より対称性の高いカゴ状を持つため非クラマースΓ3基底状態のみを持ち,約0.2Kでブロードな比熱の山を示すことから四極子秩序基底状態が期待されているPrPt2Cd10について超低温高磁場での熱膨張・磁歪測定を行い,140mKで反強四極子秩序を支持する熱膨張係数の変化を得た。さらに,より低温の20mKにおいて熱緩和時間の増大を伴う熱膨張係数の異常を発見し,その磁場依存性から新たな秩序転移の可能性を強く示唆する結果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
希土類カゴ状化合物であるPr3Pd20Ge6, PrPt2Cd10について,超低温高磁場多重極限環境での熱膨張・磁気歪精密測定を行うことにより,四極子秩序相内部に熱膨張係数・磁歪係数に異常を示す新たな秩序状態の変化が存在することを初めて明らかにすることができている。特にPrPt2Cd10においては,140mKの比熱の異常が四極子秩序転移ではなく,今回明らかにされた20mKでの異常が四極子秩序転移もしくは超伝導転移の可能性も指摘されている。これらを明らかにするため,ピエゾ回転素子に歪測定セルを搭載し低温高磁場環境で磁場方向が変化可能な歪測定装置の開発を行い,ヘリウム3冷凍機を用いた動作試験を行いつつあるが,液体ヘリウム需給難から開発試験が滞っている。このため,超伝導転移の検証に不可欠である高磁場中までの交流帯磁率精密測定装置の開発を並行して行い,外部磁場と垂直方向帯磁率測定システムの構築を行った。これらより現在の進捗状況は「(3)やや遅れている」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
PrPt2Cd10の20mKでの秩序転移の解明が急務であり,熱膨張・磁気歪測定では20mKでの秩序転移は外部磁場により抑制され0.2Tでは消滅することから超伝導転移の可能性も示唆されている。このため,希釈冷凍機を用いた20mK, 9Tの極低温高磁場中での垂直交流帯磁率測定により磁気的性質を明らかにする。また,同じPr1-2-20系であるPrIr2Zn20は0.11Kで四極子秩序転移するが,エントロピーの解放量が小さく,さらに低温の50mKで超伝導転移が報告されているが,低温基底状態が十分解明されていない。このことから,PrIr2Zn20の超低温高磁場での熱膨張・磁歪測定および,これらの磁場方向依存性測定をおこなうことで,四極子ゆらぎによる超伝導発現機構の解明への進展をはかる。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度に合算して使用する
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