研究実績の概要 |
物性研究において,基底状態をもたらす相互作用機構の解明には物質を秩序温度以下まで冷却する必要があるが,相反する相互作用が拮抗している場合や高次の秩序変数が支配的な場合, 秩序状態の出現が2桁以上低温になる。本研究では,温度10mK (0.01 K),磁場8Tの超低温高磁場 を用いることによりはじめて実現可能な f 電子の基底状態の研究として,電気四極子が秩序変数となる希土類カゴ状物質の基底状態,絶縁体スピン磁性体の異方磁気弾性係数による巨大磁歪について,結晶軸に対する磁場方向を制御 した熱膨張・磁歪の測定を行なうことで,基底状態をもたらす f 電子間相互作用の機構の解明を目指している。 希土類カゴ状化合物は希土類原子が対称性の高いサイトに位置している場合,磁気秩序と四極子秩序の共存,非磁性Γ3二重項の四極子秩序と超伝導の共存など,多彩な基底状態を持つが,これらの秩序転移温度は100mK以下の極低温となるためこれまで十分な研究がなされていない。本研究では,希土類カゴ状化合物Pr3Pd20Ge6,PrPt2Cd10,PrIr2Zn20について,核断熱消磁冷却による超低温領域,および,希釈冷凍機と超伝導マグネットによる10mK, 9Tの極低温強磁場環境において,キャパシタンス法による熱膨張・磁歪測定,インピーダンスブリッジによる交流帯磁率測定を行った。その結果,Pr3Pd20Ge6では異なるサイトでの反強磁性秩序と四極子秩序の共存,反強四極子秩序状態での核磁気秩序,PrPt2Cd10の反強四極子秩序相内部での磁場による状態変化,PrIr2Zn20での反強四極子秩序の磁場変化と超伝導の共存などを明らかにした。現在も継続して研究をおこなっているが,四極子秩序研究の新たな可能性を強く示唆する結果が得られた。
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